閉じ込められたのは私じゃない

高校時代の話だ。
俺の学校では「旧校舎の3階には絶対に入るな」という噂があった。

理由ははっきりしない。ただ、何年も使われていないその一角は、常に鍵がかかっていて、教員すら近づこうとしなかった。
当然、生徒たちの間では心霊スポットとして有名で、肝試しの定番だった。

ある日、クラスの男子数人で放課後に忍び込むことになった。
俺はあまり乗り気ではなかったが、断ると「ビビってる」とからかわれそうで、仕方なく同行した。

3階への階段には古い木の柵が設けられていたが、隙間から簡単に通れた。
廊下は埃っぽく、天井の蛍光灯はほとんどが切れていた。

しばらく進むと、一つだけ他と違う教室があった。
その部屋だけ、なぜか真っ白な扉だった。

興味本位でドアを開けると、中もすべてが真っ白だった。
壁、床、天井、机や椅子までも白塗りで、異様な空間だった。

「やばくねこれ……」
「何かの実験室とか?」
と囁き合っていると、ひとりが「写真撮っとこうぜ」とスマホを構えた。

だが、彼がシャッターを切った瞬間、部屋のドアがバタンと閉まった。

慌てて開けようとしたが、びくともしない。
内側に鍵はなく、完全に閉じ込められた状態だった。

その時だった──
背後から、「入ってくるな」と低い声が聞こえた。

全員、顔を見合わせる。誰も喋っていない。

「今の……お前か?」

「いや、俺じゃない」

声は、壁の向こうから聞こえたような気もしたし、部屋のどこかから直接聞こえたような気もした。

パニックになりかけた時、スマホのフラッシュが勝手に光った。
誰も写真は撮っていないのに、パッと明るくなり、その瞬間だけ部屋の隅に女の影が映った。

全員が凍りついた。

その直後、ドアがギィ……とゆっくり開いた。

俺たちは一斉に飛び出した。

それ以来、誰もその教室には近づかなくなった。

後日、こっそり撮ったはずの写真を見返してみたが──
なぜか白い部屋の写真だけが真っ黒だった。

ただ、その1枚だけ、画面の中央にうっすらと女の顔が浮かんでいた。

それは、白ではなく、血のように赤い目をしていた。

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