誰も知らない階段

私の通っていた高校には、妙な噂があった。校舎裏の体育館とプールの間に、誰も使っていない小さな非常階段があるのだが、「絶対に昇ってはいけない」と言われていた。なぜかと言えば、その階段を昇ると、誰もいないはずの場所に人影が見えるからだという。

くだらない都市伝説だと思っていた私は、ある日の放課後、友人の浩一とその階段を見に行った。夕焼けが差し込む校舎の裏で、確かに小さな錆びた鉄階段があった。普段はフェンスに隠れていて見えないが、角度によっては通路からも見える。

「行ってみようぜ」
浩一が先に昇りはじめた。私も後に続く。踊り場まで上がったそのとき、上の階段の陰から“誰かの足”が見えた。真っ白なスカート、黒い靴。そしてピクリとも動かないその脚。

「……誰かいるな」
浩一が囁いた瞬間、上から“ガンッ”という音が響いた。慌てて二人で下まで戻ったが、振り返ると誰もいなかった。ただ、階段の踊り場に、赤黒い染みがべっとりと広がっていた。

翌日、教室でその話をすると、隣の席の女子が真っ青な顔で言った。
「その階段、昔ある女子生徒が飛び降り自殺したんだよ。白い制服着てた子。放課後、何かに追われてたらしくて……」

私たちは言葉を失った。
調べてみると、その事件は新聞にもなっていた。あの踊り場から飛び降りた女子生徒は、助けを求めて階段を上がっていたという。

それ以来、あの階段に近づくと、必ず誰かの視線を感じるようになった。誰もいない放課後、階段の陰に見える白いスカート。今でも、風のない日にだけ現れるという。

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