深夜2時の来訪者

一人暮らしを始めて3ヶ月ほど経った頃、私は妙な気配に悩まされるようになった。
23区内とはいえ築40年を超える古い木造アパートで、隣室との壁も薄く、夜になると家鳴りがよく響いた。

けれど、ある夜を境に、「気配」の質が変わった。
深夜2時ちょうど。決まってインターホンは鳴らないのに、玄関のドアの向こうに誰かが“立っている”気がするのだ。

最初のうちは気のせいかと思っていたが、夜が来るたびにその「気配」は強まっていった。
物音はない。ただ、そこに“在る”という感じがしてならなかった。

ある晩、恐怖に耐えきれず、私はスマホを手に玄関へ向かった。
ドアスコープを覗く勇気はなかった。代わりにインターホンの履歴を確認する。
……履歴は空白だった。やはり、誰かがただ立っていただけなのだ。

それから数日後。
仕事の疲れもあって私は早く寝てしまい、気づくと午前2時を少し過ぎていた。
「今日は来なかった」と安心しかけたそのとき。

──ピンポーン。

部屋に響いた音に、全身が凍りついた。
ついに、音が鳴った。
誰かが、本当に来たのだ。

恐怖で動けずにいると、ふとスマホに通知が届いた。
「不在着信:母」
すぐに折り返すと、母がこんなことを言った。

「さっき夢であんたの部屋に行ったら、玄関の前に真っ黒い影が立ってたの。あんた、今、部屋にいる……よね?」

その夜以来、2時の来訪者は現れなくなった。
でも、たまに考える。
あの時、ドアを開けていたら──私じゃなく、母の方が連れていかれていたのかもしれない。

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