深夜のエレベーター

友人の佐々木が一人暮らしを始めたのは、築年数の古い10階建てのマンションだった。
家賃が安い代わりに、エレベーターは古く、ボタンを押してもすぐに来ないことが多かったという。

ある晩、深夜0時を回った頃、仕事帰りの佐々木がマンションに戻ると、1階のロビーには誰もいなかった。
エレベーターのボタンを押しても、ランプはつかない。数分待ってようやくエレベーターが到着したが、誰も乗っていない。
違和感を覚えつつも中に入り、自分の部屋がある7階のボタンを押した。

エレベーターが上昇を始めると、ふと背後に気配を感じた。振り返るとやはり誰もいない。だが、鏡には自分の他に、もうひとり分の影が映っていた。
それはぼんやりとした長髪の女性の姿で、鏡越しにこちらをじっと見つめていた。

佐々木はパニックになり、慌てて非常ボタンを押した。だが何の反応もなく、エレベーターはそのまま上へ上へと上がっていく。
7階を通り越し、8階、9階、そして停止しているはずの10階で止まった。
ドアが開くと、薄暗い廊下の先に、ひとりの女が立っていた。髪は顔を覆い、真っ白なワンピースを着ていたという。

女がゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。佐々木はドアの「閉」ボタンを必死に連打したが、まったく反応しない。
女の足音が近づく中、エレベーターの電灯が一瞬だけ消え、次に点いたときには……誰もいなかった。

翌朝、管理人に10階のことを聞いたが、「あそこは立ち入り禁止の空き部屋。何年も前に事故があってね、閉鎖されてるんです」とのこと。
それ以来、佐々木は階段しか使わなくなった。

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