廃トンネルの声

大学の夏休み、友人4人と肝試しに行くことになった。
目的地は地元でも有名な心霊スポット、「〇〇峠の廃トンネル」。
20年以上前に土砂崩れで通行止めになった古いトンネルで、事故や自殺が多発したと言われている。

深夜1時、私たちは懐中電灯を手に、そのトンネルの前に立った。
入口には鉄柵が設置されていたが、誰かが切ったように一部が開いていた。

「行くか……」

先頭のユウスケが柵をくぐり、私たちも続いた。
中は思ったより狭く、湿気とカビのような匂いが充満していた。
水の滴る音だけが、ずっと響いていた。

10分ほど進んだころ、後ろから「ねえ、今、声聞こえた?」と誰かが言った。

「え? 何も言ってないけど……」

「違う、ほら、さっきからずっと“たすけて……”って」

私には何も聞こえなかったが、その場の空気が一気に張りつめた。

そのとき。

「たすけて……」

はっきりと、耳元で女の声がした

全員が悲鳴を上げて、一斉にトンネルの出口へと走り出した。

ようやく外に出たときには、全員汗だくで、誰も一言もしゃべらなかった。

その日は解散して、それぞれの家に帰った。

──だが、異変はその翌日から始まった。

参加メンバーの一人、ナオが突然失踪した。

連絡は取れず、家族も所在を知らなかった。

警察にも届けたが、しばらく手がかりは見つからなかった。

そして1週間後、ナオのスマホが発見された。
トンネルの近くの雑木林で、泥にまみれて転がっていたという。

中を確認すると、最後に撮影された写真が一枚だけ残っていた。

それは、トンネルの内部を映した暗い画像。
その画面の奥に、小さく、**“こちらを向いて手を振る女”**が写っていた。

私たちが誰も見ていなかった方向に──確かに“もう一人”いた。

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