鍵のかかった部屋

大学時代、俺はアパートの2階に住んでいた。
古い建物だったが家賃が安く、大学からも近かったので即決した。

ある日、バイトから帰ってきて部屋に入ると、何か違和感を覚えた。
部屋の空気が重い。匂いも少し違う気がした。

部屋のドアはきちんと施錠されていたし、窓も閉まっていた。
誰かが入った形跡はない。
それでも、誰かが“居た”ような気がしてならなかった。

そんな日が続いた。

ある日、学校から戻ると、机の上に置いていたはずのペンが微妙に動いていた。
電源を切っていたはずのテレビが、薄くノイズを流していたこともあった。

不安になって、友人に相談すると「気のせいだろ」と笑われた。
しかし、俺には確信があった。この部屋に、誰かがいる。

そう思い、ある日、隠しカメラを設置することにした。
古いスマホを使って録画するだけの簡易的なものだ。

そして翌日、録画を確認した俺は、言葉を失った。

夜中の2時頃、俺が寝ている布団の横を、何かが横切っていた。

真っ黒な影だった。顔も形もはっきりしないが、人のような輪郭。

影は俺の寝ている枕元に立ち、しばらくじっと動かずにいた。

その後、ふっと視界から消えた。

恐怖に震えながらも、俺は映像を削除し、すぐに引っ越しを決めた。

引っ越しの日、荷造りをしていると、押し入れの奥に不自然な板を見つけた。
試しに外してみると、その奥にはもうひとつ、小さな空間があった。

小さな部屋……と呼ぶには狭すぎるが、そこには人ひとりがしゃがんで入れそうなスペースがあった。

そして、そこには空のカップラーメンやペットボトル、使い古された毛布が置かれていた。

誰かが……ここで生活していたのだ。

すぐに警察を呼んだ。

調査の結果、ホームレス状態だった中年男性が、誰にも気づかれず俺の部屋の壁の裏で数ヶ月間生活していたことが判明した。

風呂は大学の体育館で済ませ、食料は廃棄物やコンビニのごみ箱から。
俺がバイトで出ている時間を狙って出入りしていたという。

ドアの鍵を開けた形跡がなかったのもそのためだった。

だが、ひとつだけ……説明のつかないことがある。

警察がその男を捕まえたのは、“俺が引っ越した2週間後”のことだった。

あの夜、布団のそばに立っていた“影”は、じゃあ──誰だったのか?

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