小学校の頃、僕には“ミカちゃん”という女の子の友達がいた。
ミカちゃんはいつも髪に赤いリボンをつけていて、明るくて、よく笑う子だった。
毎朝、僕とミカちゃんは一緒に登校していた。
でも、ミカちゃんは少し変わっていて、なぜか学校の手前50メートルで必ず別れるのだった。
「じゃあ、ここでバイバイね」と手を振り、ミカちゃんはいつも角を曲がって別の道へ行く。
その先がどこにつながっているのか、僕は知らなかった。
ある日、好奇心に駆られた僕は、ミカちゃんのあとをこっそりつけてみることにした。
けれど、角を曲がった先には──誰もいなかった。
不思議に思いながらも、あまり気にせず学校に向かうと、教室にはいつものようにミカちゃんがいた。
「さっきの道、どこに行ったの?」と尋ねると、ミカちゃんは「秘密だよ」と笑った。
そんなやり取りを何度かしたある日、ミカちゃんは急に学校に来なくなった。
先生たちは「引っ越した」とだけ説明した。
でも、そんな話はまったく聞いていなかったし、引っ越しの準備もしていなかったはずだ。
僕は納得できず、ミカちゃんの家を訪ねた。
けれど、そこにはすでに誰も住んでいなかった。
ポストには「転居先不明」の張り紙。庭は荒れ、窓には板が打ち付けられていた。
それから10年以上経った今、僕は社会人になり、地元を離れていたが、
たまたま出張であの町を通ることになった。
懐かしくなり、小学校の近くを歩いていると、ふと目に入った。
角を曲がった先、赤いリボンの女の子が立っていた。
まさかと思って目をこすると、もう姿はなかった。
帰り道、気になって地元の図書館に立ち寄った僕は、ある記事を見つけた。
12年前、小学生の女児が通学途中に失踪。
最後に目撃されたのは、小学校から50メートル手前のT字路。
今も行方不明のまま、事件性があるとして捜査継続中。
女児の特徴:赤いリボンを常に身につけていた。
ミカちゃんの顔が、思い出せなくなった。
でも、「赤いリボンだけは覚えてる」と、僕は呟いた。
あの時、彼女が消えた“角の先”には、何があったのだろう。
そして、僕は一度だけ、その消える瞬間を見ていたのに──何も覚えていない。
解説
- ミカちゃんは実際には失踪した少女であり、行方不明事件の被害者。
- 「角を曲がったら姿がなかった」=すでにこの世の存在ではなかった、もしくは何者かに連れ去られた。
- 読者は、「毎日一緒に登校していたのに、学校の直前で消える」「家が突然無人になった」などの違和感に気づく。
- 一番怖いのは、「目撃者(=主人公)が“失踪の瞬間を見ていた”」可能性があるにもかかわらず、その記憶をなくしている点。
- ミカちゃんの幽霊が、彼に助けを求めて現れたのかもしれない。
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