今日は僕の誕生日。
朝からLINEやSNSでたくさんのメッセージが届いていて、なんだか嬉しかった。
でも一番楽しみにしていたのは、彼女の由香が用意してくれた「サプライズ」だった。
「今日、家に来て。楽しみにしててね」
前日にそう言われていた。
放課後、僕は急いで彼女のアパートへ向かった。
ピンポンを鳴らすと、ドアがすぐに開いた。
部屋の中は暗かったが、テーブルの上にはケーキとプレゼント、壁には「Happy Birthday」と書かれた飾りがあった。
「おめでとう!」
電気がパッと点いて、彼女がクラッカーを鳴らした。
小さなパーティーだったけど、心のこもった準備が嬉しかった。
僕は「ありがとう」と笑いながら席につき、用意されたケーキを食べ、彼女といろんな話をした。
「プレゼント、あとで開けてね」
由香はそう言って、少し照れたように笑っていた。
夜9時頃になり、僕はそろそろ帰ろうと立ち上がった。
そのとき、テーブルの上に置かれていたスマホが鳴った。彼女のスマホだ。
彼女は少し顔を曇らせながらスマホを見て、通話に出た。
「……うん、今、帰ったよ。え? 何言ってんの、家にいるわけないでしょ。……うん、じゃあね」
電話を切った彼女は「ごめんね、友達からの確認の電話だった」と笑った。
でも、なんとなく気になって聞いてしまった。
「誰から?」
「ん? 由香だよ」
「え?」
「……なに?」
その瞬間、僕は寒気が走った。
テーブルの上に置かれていたスマホの画面には、「由香(本人)」と表示されていたのだから。
解説
この話の恐怖の本質は、**「目の前にいた“由香”が本物ではない」**という点にある。
- 主人公は由香の家に招待されている。
- ケーキや飾り、プレゼントなどが用意され、彼女本人だと思っていた。
- しかし、途中で鳴ったスマホに「由香本人」から電話がかかってくる。
- 通話の中で、「今、帰った」「家にいるわけないでしょ」と言っているため、電話をかけた“本物の由香”は、今家にはいない。
- にもかかわらず、主人公の目の前には“由香”がいる。
つまり、主人公は誰か別の存在に家に招かれたことになる。
「なりすました何者か」か、あるいは「由香本人を何かが乗っ取ったのか」。
どちらにせよ、彼が一緒にいたのは本物ではない。
そして最後、彼が違和感を覚えた瞬間、“偽物”の彼女はただ笑っていた──。
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