記念写真

大学時代、仲の良い友人5人で旅行に行ったことがある。
行き先は山奥にある古びた温泉旅館。ネットのレビューでは賛否両論だったが、「逆にネタになるだろ」とノリで決めた。

旅館に到着したのは午後3時過ぎ。少し傾いた木造の建物、軋む床、くすんだ襖。いかにも昭和の雰囲気が漂っていたが、スタッフは感じがよく、部屋もそれなりに清潔だった。

夜は浴衣に着替えて近くの山道を少しだけ散策し、旅館に戻った。
夕食のあと、部屋に戻ってから5人で集合写真を撮った。三脚にスマホをセットして、タイマーでパシャリ。笑顔でピースする全員の顔が画面におさまっていた。

翌朝、チェックアウトを済ませたあと、1人の友人が言った。
「なんかさ、あの写真…見返すと違和感あるんだよな」

見せてもらった写真には、確かに5人が並んで写っている……はずだった。が、よく見ると、写っているのは6人だった。
真ん中にいたはずの俺の左隣に、見覚えのない若い女が立っていた。顔は笑っていたが、目元が妙にぼやけていて、輪郭が不自然に滲んでいる。

「これ……誰?」

全員が首を振った。こんな女はいなかった。
誰も旅館で見かけた記憶もないし、撮影時に人が近くにいた覚えもない。

気味が悪くなって写真を削除しようとしたが、なぜかスマホがフリーズしたようになり、削除できなかった。再起動しても同じ。結局、その日はそのまま帰路についた。

ところが、家に戻ったその夜。スマホの通知が一斉に鳴った。
通知の内容はすべて**「写真が更新されました」**というもの。件の写真を見ると、女の顔がはっきりと写っていた。滲んでいたはずの目元も、輪郭も、くっきりと。まるで……誰かに見られているような目だった。

翌朝、集合写真に写っていた友人のひとり――杉山が、事故に遭ったという連絡が入った。単独でのバイク事故。ブレーキが効かず、崖から転落したそうだ。

その夜、もう一度スマホの写真を見た。
……今度は、写っているのが5人だけになっていた。杉山の姿が消えていた。

代わりに、あの女が杉山のいた場所に立っていた。


※ 解説

この話の恐怖は、「写っていた6人目の女」が幽霊だったことにある。
彼女は写真に映るたびに**“誰かと入れ替わって”**いく。最初はただ映っていたが、翌日杉山が亡くなったあと、彼の位置にその女が立っていた。

つまり、この女は写真に写る人物とひとりずつ“場所を交換”していく存在
写真に写った人間を一人ずつ「取り込んで」いく。

残された4人の友人たちも、いずれ順番にこの女と入れ替わって消えていく運命にある。

読者が気づいたとき、すでに何人かはこの世にいないかもしれない──。

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