ある町の警察署に、ある日1本の通報が入った。
「向かいの家のベランダに子どもが閉じ込められてるみたいなんです。大丈夫か見てきてもらえませんか?」
通報者は近所に住む30代くらいの男性で、名前と連絡先もちゃんと名乗った。
現場に駆けつけた警官が確認すると、確かに2階のベランダに幼い女の子がいた。
「ママがいないの……開けてって言っても返事がないの……」
玄関の鍵はかかっていたが、消防の協力でなんとか室内に入ると、母親は倒れていた。
幸い命に別状はなかったが、軽い脳梗塞で動けなくなっていたらしい。
女の子は無事保護され、母親も病院で治療を受けることができた。
「通報してくれた人がいて助かった」と、母子ともに感謝していた。
記者が美談としてニュース記事にしたほどだった。
だが──その記事を読んだ一人の警官が、ふと違和感を口にした。
「この人さ、どうして“ベランダにいる”って分かったんだろう?」
そう、通報時点では女の子はベランダにいた。だが、外からは見えない位置にいたのだ。
道路に面していない裏側、しかも隣家との間には高い塀があり、直接確認するのは不可能。
さらにその日、通報者は「向かいの家の者です」と名乗っていたが、その家には誰も住んでいなかった。
警察が改めて通報記録の番号に連絡すると、「現在使われておりません」という自動音声。
記録された名前も偽名だった。
その後、何度か同じような「子どもの命が助かる通報」が各地であったが、どれも通報者の身元は確認できなかったという。
その不思議な通報者は、なぜ現場を知っていたのか。
そして、なぜそれを助けようとしたのか。
善意の幽霊だったのか、それとも──
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