留守番電話の声

一人暮らしを始めてから半年ほど経った頃。
ある日、携帯に着信履歴が残っていた。非通知だったが、なぜか気になって留守番電話を再生してみた。

「……たすけて……たすけて……」

かすれた女性の声だった。聞き取れるのはその一言だけで、あとは何かを擦るような雑音が続いた。

気味が悪くてすぐに削除したが、翌日も同じ番号から留守電が入っていた。

「たすけて……ここがわからないの……」

声の主は相変わらず女性で、どこか苦しそうだった。けれど、心当たりは一切ない。番号も非通知のため折り返すこともできなかった。

3日目、留守電にはこう残っていた。

「見えてる……あなたがいるの、見えてるの……」

鳥肌が立った。部屋中のカーテンを閉め、スマホの電源も切った。

警察に相談しようかとも考えたが、具体的な被害もなく、ただのいたずら電話だろうと自分に言い聞かせた。

それから数日は何も起こらなかった。

だが1週間後、また非通知から着信があった。留守電を再生すると、今度はまったく違う声が録音されていた。

低く、機械のような男の声で、こう繰り返していた。

「……あれは、お前の声だ……お前の声だ……」

あまりの不気味さに、スマホを床に投げてしまった。

冷静になってから録音時間を確認すると、最後の留守電は、僕が寝ていたはずの深夜2時15分に残されていた。

もちろん、僕はその時間に誰とも話していない。

けれど、ふと思い出した。

その日、寝ているときに見た夢のことを。

薄暗い部屋の中で、僕は誰かに電話をかけていた。
受話器の向こうに、誰かがいた。かすかに、声が聞こえていた。

「たすけて……ここがわからないの……」

夢の中の僕が、確かにそう言っていた。

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