俺が大学に入って一人暮らしを始めてから、母はやたらと電話をかけてくるようになった。
用もないのに「元気?」「ちゃんと食べてる?」と何度も連絡してくる。
最初はありがたかったが、次第にそれが少し重く感じるようになっていった。
ある日、ゼミの帰りに母から電話がきた。
「夕飯、何食べたの?」
「今日は授業どうだった?」
もう夜9時近かったが、俺は面倒で「あとでLINEする」とだけ言って切った。
その30分後、また電話が鳴った。
ちょっとイラッとしながら出ると、母の声が震えていた。
「…ねぇ、さっきの電話のとき、誰か一緒にいた?」
「え? 一人だけど」
「……そっか。ううん、ごめんね。なんでもない」
その日はそれで終わったが、翌朝、母からLINEが来た。
「録音してたの聞いたんだけど、あなたの後ろで“しっ!”って聞こえたの。」
俺は背筋がゾッとした。
母はその音に気づいてから、怖くなって録音を繰り返し聞いたらしい。
俺がしゃべったあと、小さく「静かに……」とささやくような声が入っていたという。
念のため、スマホの通話録音機能を確認したが、俺のスマホには録音の設定はしていない。
俺は部屋を確認した。玄関も窓も施錠されていたし、誰かが侵入した形跡もない。
でも、その日の夜、机の上に置いていたノートの1ページに、ボールペンで“見つかっちゃった”と書かれていた。
俺は翌日、アパートを引き払った。
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