僕には幼い頃から仲の良い親友がいた。
名前は健太。
何をするにも一緒で、学校でも家でも、兄弟のように過ごしていた。
中学に入るとクラスが別になり、次第に話す機会も減っていった。
それでも、たまに手紙を交換しては、近況を伝え合っていた。
手紙なんて時代遅れだけど、健太が「字を書くのが好き」と言ったので、僕も合わせていた。
高校に進学してからはますます疎遠になった。
彼は少し不登校気味になり、会う機会もほとんどなくなっていた。
それでも、たまにポストに彼の手紙が入っていた。
便箋にはいつも丁寧な字で、近況や悩みが綴られていた。
「最近眠れなくて、夜になると誰かの声がするんだ」
「母さんは信じてくれないけど、僕は確かに聞いたんだ」
「僕のことを“代わり”だって言った」
そんな内容が、少しずつ増えていった。
僕は「大丈夫?」と返信を書いたが、それに返事が来ることはなかった。
ある日、彼の母親から電話がかかってきた。
「健太が亡くなったの……首を……部屋で」
突然のことで、何が何だかわからなかった。
葬儀には参列したが、僕はどうしても信じられなかった。
彼がそんなことをするなんて。
でも、確かに最後の手紙にはこう書かれていた。
「僕はもうすぐいなくなる。でも、君ならきっとわかってくれると思う」
それから数年が経った。
僕は大学に進学し、実家を離れた。
ある日、久しぶりに実家に帰った時のこと。
ポストに、一通の封筒が入っていた。
差出人の欄には──健太の名前。
恐る恐る封を切ると、そこには見覚えのある字でこう書かれていた。
「ありがとう。君がいてくれて良かった。
でも、次は君の番だよ。
代わりが必要だから。
また、一緒にいようね」
文字がにじんでいたのは、インクではなく、乾いた血のように見えた。
僕は震えながら母に確認した。
「ねえ……この手紙、いつ届いたの?」
母は不思議そうな顔をして言った。
「え? あんたが帰ってくる前の日に、自分で持って帰ってきたんじゃないの?」
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