高校生の俺には、5つ下の弟がいる。
年は離れているが仲は良く、小さい頃からよく一緒に遊んでいた。
ある日、母が急用で外出することになり、夕方まで弟の面倒を見るよう頼まれた。
俺は部屋でゲームをしていたが、弟がやたらと「遊んでー」とせがんでくる。
「あとでな」と言っても、「ねぇねぇ」としつこく話しかけてくる。
ついに我慢できず、「ちょっと静かにしてくれないか」と声を荒げてしまった。
その直後、弟は静かになった。
しばらくして様子を見に行くと、弟は自分の部屋で絵本を読んでいた。
「さっきはごめん」と謝ると、弟はニコッと笑って「だいじょうぶ」と言った。
それから1時間ほど経ち、母が帰宅した。
リビングで母に「弟なら自分の部屋で遊んでる」と伝えると、母は不思議そうな顔をした。
「弟? 今日、朝から友達の家に泊まりに行ってるけど?」
え?
俺は一瞬、何を言われてるのか分からなかった。
「いや、だってさっきまでずっと家にいたよ? 俺の部屋にも来てたし、今も自分の部屋に──」
そう言いながら弟の部屋を開けた。
──誰もいなかった。
部屋の中は綺麗に整っていて、絵本も元の場所に戻されている。
弟の上着も靴もなかった。最初から、誰も帰ってきていないような様子だった。
「本当にいたんだって」と俺が言うと、母は心配そうな目で俺を見つめた。
俺は混乱したまま、念のためスマホの防犯カメラアプリを開いた。
実は最近、自室に古いスマホを設置して、留守中の様子を自動録画している。
その録画を再生すると──確かに“弟の姿”が映っていた。
ドアを開けて俺に話しかけてくる小さな後ろ姿。
何度も「遊んで」と言いながら俺の近くをうろつく様子。
そして、俺が怒ると、部屋を出ていく。
だが、問題はその後だった。
録画のタイムスタンプは、昨日の夜だった。
今日の分は、一切録画されていなかった。
しかも映像の最後、弟がこちらを向いたとき──顔が、ぼんやりと黒く塗りつぶされていたようにしか見えなかった。
母に見せようと思ったが、なぜか録画は再生できなくなっていた。
保存ファイルはあるのに、開けない。
そして夜、布団に入って目を閉じようとしたとき。
耳元で、小さな声がした。
「──つぎは、いつ遊んでくれる?」
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