引っ越しの荷ほどきをしていたとき、古びた封筒が出てきた。
見覚えのない封筒だったが、差出人欄には自分の名前が書かれていた。筆跡も、自分のものに見える。
中には、小さく折り畳まれた一枚の紙が入っていた。
『絶対にこの部屋に戻ってくるな』
意味が分からなかった。
でもなんとなく気味が悪くて、その日は早めに寝ることにした。久しぶりの一人暮らし。前の住人の忘れ物かもしれないと思い込もうとした。
その夜、夢を見た。
知らない部屋。見知らぬ風景。
でも、どこかで見たことがある気がする。妙に懐かしいような感覚があった。
翌日、封筒を捨てようとしたが、どうしても手が止まった。気味の悪い夢と、このメモ。偶然にしては出来すぎている。
封筒の裏には、日付が書かれていた。
「2031年 8月12日」
──7年後?
意味が分からず、ネットで「未来からの手紙」なんて検索してみた。もちろん、出てくるのは都市伝説や作り話ばかり。
笑い飛ばそうとしたが、どこか背中が寒かった。
その週末、友人が遊びに来た。酒を飲みながら何気なく「変な封筒があった話」をしたら、急に顔をこわばらせた。
「お前さ……この部屋、事故物件って知ってた?」
全く知らなかった。
「前の住人、自殺したんだって。7年前の8月12日にな。しかも、自分宛に封筒残してたらしいよ。『絶対にこの部屋に戻ってくるな』って。」
酒のせいで酔いが一気に醒めた。
部屋を見回すと、どこも見慣れたはずなのに、急に息苦しく感じた。
封筒は、机の上に置いたはずだったが、どこにもなかった。
まるで、最初から存在していなかったかのように。
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