ある日、僕は古本屋で見つけた安い日記帳を買った。
カバーに傷がある以外は真新しく、ページも白紙だった。使いやすそうだったので、簡単な日記でもつけてみようと思った。
最初のページに、自分の名前と住所を書き、日々の出来事を少しずつ書いていった。
「今日はバスに乗って出かけた」とか、「夕飯はカレー」とか、他愛もない内容。
3日目。ページを開くと、妙なことに気づいた。
前日に書いた覚えのない記述がある。
『夜中に何度か物音がして起きた。2階の窓が開いていたので閉めた。』
……そんなことはしていない。僕は2階になんて行ってないし、そもそも夜中に起きてすらいない。
気味が悪かったが、「自分が寝ぼけて書いたのかも」と考えて、そのままにした。
数日後、また書いた覚えのない文が追加されていた。
『玄関の鍵を差し替えた。古いのはもう使えない。』
これはおかしい。
僕はその日、鍵になんて触っていない。もちろん差し替えてもいない。
不安になり、玄関の鍵を確認した。確かに、鍵の感触が違う。鍵穴も、何か違う。
焦って不動産会社に連絡したが、「鍵は交換していない」との返事だった。
そしてその日の夜。
僕は寝ていて、何かの気配で目を覚ました。部屋の空気が重い。
ふと視線を窓に向けると──そこに、知らない男の顔があった。
窓の外から、こちらをのぞきこんでいる。目が合った。
驚いて叫びそうになったが、男はにやりと笑い、スッと消えた。
警察に通報したが、侵入の痕跡は見つからなかった。
翌日、日記帳のページがまた勝手に書き換えられていた。
『今の部屋、やっぱり住み心地がいい。慣れてきた。しばらくここにいる。』
……それを書いたのは、僕じゃない。
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