ロッジの寝袋

高校3年の夏休み、仲の良い友人6人で山奥のロッジに一泊旅行へ行った。
キャンプ場というよりは、ちゃんとした木造のロッジで、水道も電気も通っており、寝袋だけ持ち込めば快適に過ごせる場所だった。

「ホラー大会しようぜ!」と誰かが言い出し、夜は懐中電灯片手に怪談を披露し合うことに。
山奥という環境も相まって、ちょっとした肝試し気分だった。

その夜はよく覚えている。
全員でリビングに集まり、順番に怖い話をしていった。
途中で「このロッジ、ちょっと寒くね?」と冗談交じりに言う者もいたが、室温計は22度。
でも確かに、どこか空気が妙にひんやりしていた。

夜中、ふと目が覚めた。
喉が渇いて水を飲もうと、暗いロッジの中を手探りでキッチンへ向かった。

そのとき、窓の外に“誰か”が立っているのが見えた。
背丈は人間くらい。懐中電灯で照らすと、そこにはもう何もなかった。

気のせいだと思い、くるりと振り返ると、目の前に友人Aが立っていた。
彼も目を覚まして、喉が渇いたらしい。

「さっきの外の人、誰だった?」と彼は言った。

「わからない。ただの気のせいかも」と曖昧に返して、そのまま寝床に戻った。

翌朝、全員で朝食を囲みながら、昨夜の話をした。

Aが「夜中に誰か立ってたよな」と言い出し、私も頷いた。
だが、他の4人は「俺たちはぐっすり寝てたぞ」と首を振る。

「誰も外には出てないし、ドアも開けてない」

念のため、全員の寝袋を数えてみることになった。

結果──寝袋は7つあった。

私たちは6人で来た。誰も忘れてはいない。
持参した寝袋も、全員が自分のものだと確認した。

じゃあ、残りの1つは誰のものだったのか。
そのときは誰も深く考えなかった。何かの手違いかも、と流してしまった。

ロッジを離れるとき、私はこっそり、その余った寝袋を確認してみた。

中には何も入っていなかった。だが、寝袋の裏側には小さな名前の刺繍があった。

「ナカハラ シンイチ」

──その名前に覚えはなかった。

が、ロッジに貼ってあった注意書きにふと目が止まった。

「事故記録:2017年8月14日、ナカハラ シンイチ様(18歳)が付近の沢にて転落死」

日付は、ちょうど3年前の同じ日だった。

もしかしたら──私たちがあのロッジに泊まった「人数」は、最初から7人だったのかもしれない。

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