となりの席の子

中学2年のとき、俺の隣の席には「倉田」という女の子がいた。

無口で、いつも下を向いている。誰とも話さず、教科書だけを静かに眺めていた。
クラスでもあまり存在感はなかったけど、なぜか俺とはよく目が合った。

ある日、学校帰りに彼女から声をかけられた。

「今日、一緒に帰っていい?」

驚いたけど断る理由もなく、俺たちは無言で並んで歩いた。
途中、川沿いの道で彼女がぽつりとつぶやいた。

「私、ここで死ぬかもしれないんだよね」

唐突すぎて、俺は笑うしかなかった。
「何それ、やめてくれよ」

でも彼女は笑わなかった。ずっと真顔のまま、ただ川を見つめていた。

それから何日か後、倉田は学校に来なくなった。

担任も「しばらくお休みです」としか言わず、クラスではすぐに忘れ去られていった。
けど俺だけは、彼女が気になって仕方なかった。

ある夜、家でスマホをいじっていたときのこと。
ふと画面の通知が目に入った。

LINEの通知。「倉田さんからメッセージが届いています」。

開いてみると、ただ一言。

「となり、ありがとう。」

怖くなって既読スルーした。

次の日、学校に行くと、クラスメイトたちが騒いでいた。

「倉田って誰?」「そんな子いたっけ?」

俺は混乱した。いや、確かに存在してた。ノートにも隣の名前として書いてある。

でも、出席簿には名前がなかった。
担任に確認しても「君の隣の席は空席だったろ?」と不思議そうな顔をされた。

家に帰って、LINEの履歴を確認した。

履歴は残っていた。だが、倉田という名前のアカウントには、一度も登録した記録がなかった。

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