お父さんの写真

小学4年生の娘がいる。
名前は美咲(みさき)。少し人見知りだが、家では明るく、よく笑う子だ。

ある日、娘が小学校から帰ってくるなり、嬉しそうに話しかけてきた。

「ねえパパ、学校の図工で“家族の絵”を描いたんだよ!」

「へぇ、どんなの?」

「ママと、美咲と、お父さんの絵!」

私はちょっとびっくりした。
というのも、私は美咲の“義理の父親”だからだ。

美咲が3歳のとき、前の旦那さんが病気で亡くなった。
その1年後に今の妻と再婚し、美咲とは血のつながりはないが、本当の娘のように接してきた。

「嬉しいな。お父さんって呼んでくれてありがとう」

そう言うと、美咲は少し首をかしげながら言った。

「ううん、そのお父さんじゃないよ?」

「え?」

「絵に描いたのは“前のお父さん”だよ。ママの最初の旦那さん」

私は言葉を失った。

「どうして……その人の顔を知ってるの?」

前の旦那さんの写真は、家には一枚も残していない。
美咲が寂しがらないようにと、妻と相談して処分したはずだった。

美咲は平然と答えた。

「うん、いつも夜になると、部屋のすみっこに立ってるから。だから、すぐに思い出せるんだよ」

ゾッとした。

「……美咲、それって最近のこと?」

「ううん、ずっと前からだよ? パパが来る前から、ずっといたよ」

私は寒気を感じた。

その夜、妻にもこの話をした。
妻は無言でうつむき、最後に一言だけこう言った。

「……実は、私も見たことあるの」

「え?」

「寝室の隅で……ただ立ってるだけなんだけど、見つめてくるの。あの人に……似てた」

私は言葉を失った。

次の日の夜。

私は寝室にスマートフォンを持ち込み、天井の角に向けて動画を録画した。

翌朝、再生してみると、真夜中の2時すぎ、寝室の壁の一角に“ぼんやりと立っている人影”が映っていた。

でも、それだけじゃなかった。

その影の隣に、もう一つの影があったのだ。

背格好は、明らかに「子ども」。

私は恐怖で鳥肌が立った。

そしてその日の夕方、美咲がふいにこんなことを言った。

「パパ、あのね……昨日の夜、お父さんが“怒ってた”よ」

「怒ってた?」

「うん。“ママとパパと、美咲の3人で家族ごっこしてるのが嫌だ”って」

私はすぐに妻に伝え、家の近くの神社でお祓いをお願いすることにした。

だが、神主に事情を話していると、ある指摘を受けた。

「亡くなったご主人の霊が残っているかもしれませんね。しかし……少し気になる点があります」

「気になる点?」

神主は、こちらをまっすぐ見ながら言った。

「その“お父さんの影”が、お子さんの隣に立っていたと言いましたね?」

「はい」

「では、お聞きします。あなたの娘さん、美咲ちゃんは──一人っ子ですよね?

「……はい?」

「あなたが見た影が“二つ”だったというのなら、もう一人、そこに“誰か”がいることになります」

──私は、息を呑んだ。

確かに、あの動画に映っていた影は「大人と子ども」の2つだった。

だが美咲は一人っ子。
ならば、隣に立っていたあの“子どもの影”は──誰だったのか?

それ以来、私は娘の部屋に入るたび、思ってしまう。

あの子の隣に、もう一人、誰かがいるんじゃないかと。


■ 解説(オチ)

一見「亡き父親の霊が現れた話」のようだが、
実は娘の隣に“もう1人の子ども”の霊がずっと存在していた可能性が示唆されている。
娘が見ていたのは父親の霊だけではなく、「見えてはいけない別の存在」も常に隣にいた、という意味怖。
さらに、それが「家族ごっこが嫌だ」と“怒っていた”というセリフから、霊が娘と特別な関係にあった、または娘の同一存在だった可能性すら漂わせている。

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