うちの子じゃない

私には小学2年生になる息子がいる。
名前は“リク”。やんちゃだけど素直な子だ。

ある日、学校から電話がかかってきた。

「お母さま、リクくんが給食の時間に嘔吐してしまいまして……」

驚いて迎えに行くと、保健室でうつむいているリクがいた。
顔色は悪いが、元気そうではあった。

先生にお礼を言って、手を引いて一緒に帰宅する。

「帰ったら少し休みなさいね」

うなずいたものの、リクはずっと無言だった。

家に着き、布団を敷いて横にさせる。
すると、リクがぽつりと言った。

「ねぇ、お母さん。今日の朝ごはん……おかしかったよ」

「え?いつものトーストと卵焼きだったでしょ?」

リクは首をかしげた。

「そんなの、食べてないよ?」

「え?」

「だって、朝からずっと“ここの家にいなかった”もん」

冗談かと思って笑ったが、リクは真剣な顔をしていた。

「学校に行く前、僕……道路の向こうにいたんだよ。
気づいたら、見たことないマンションの部屋にいて……
そしたらおばさんが来て、“さぁ学校に行くわよ”って言ったの」

背筋が冷たくなった。

「その人、お母さんじゃなかった。顔も違った。でも……すごく似てた」

「なに言ってるの……」

「それで、その人にランドセル渡されて、“行ってらっしゃい”って言われて……気がついたら、学校にいたの」

リクは布団を握りしめていた。

「でね、給食の時間になって、僕が“いただきます”って言ったら……
その時、みんなが変な顔でこっちを見てきて……」

「どうして?」

「“あれ? さっきも食べたのに”って」

私はリクの額に手を当てた。熱はなかった。

疲れてるのかもしれない。怖い夢でも見たのかも。

「もう寝なさい、ね?」

そう言って布団をかけ直すと、リクは素直に目を閉じた。

私はそのままキッチンに戻り、冷蔵庫から麦茶を出そうとした。

……その時、冷蔵庫に貼られた紙が目に入った。

《朝ごはん:トースト・卵焼き → リク完食済み◎》

今日の朝、私が書いたチェックメモだった。

確かに、朝ごはんを出して、リクは普通に「ごちそうさま」と言っていたはずだ。

不安になってリビングに戻ると、リクは布団の中で寝息を立てていた。

……が、私の頭の中には、さっきの言葉が残っていた。

「朝から、ここの家にいなかった」

じゃあ──
今、寝てるこの子は──本当に、うちの子なの?

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