「それ、何の紐?」
中学の帰り道、クラスメートの理沙が突然聞いてきた。
「え?」
私は気づいていなかったけど、制服の右袖から赤い紐が5センチほど垂れていた。
「どこかに引っかかったのかな」
そう言って私は紐を引っ張った。
でも――抜けない。
強く引くと、逆に腕の中に何かが引っ張られるような違和感があった。
「やめといたほうがいいかも…変な感じしない?」
理沙の声が心なしか震えていた。
私はなんだか気味が悪くなって、紐をそのままにして帰宅した。
家に着いて、制服を脱ごうとしたとき、袖から覗く赤い紐がまだあった。
(明日になっても残ってたら切ろう)
そう思い、その日は早めに布団に入った。
夜中、夢を見た。
夢の中で、私は知らない部屋にいた。白い壁。小さな窓。
部屋の隅に、誰かが立っていた。
その人物は全身がぼやけていて、顔がよく見えなかった。
ただ――
右袖から、赤い紐が垂れていた。
その人は私の方を見て、何かを呟いた。
「戻さなきゃ。元に戻さなきゃ」
私は驚いて目を覚ました。
部屋の電気は消えていたが、なぜか右腕に強い違和感がある。
照明をつけて袖をめくると、赤い紐がまだそこにあった。
しかも、昨日よりも長くなっているように見えた。
翌朝、私は学校を休んだ。
母には風邪と伝えたが、心はざわざわしていた。
あの紐が怖くて、部屋の中でも腕を隠すようになった。
午後、理沙からメッセージが来た。
《今日、同じクラスの原田君も赤い紐が出てたらしい。右腕からって。偶然かな?》
胸騒ぎがした。
私は紐をどうにかしなければと思い、裁縫箱からハサミを取り出した。
(切れば、きっと終わる)
鏡の前に立ち、右袖の紐を見つめる。
赤く、細く、でもどこまでも奥から続いているような不気味さ。
刃を当てた瞬間――
「切っちゃダメ!」
背後から声がした。
振り返ると誰もいなかった。
ただ、鏡の中の自分が、こちらをじっと見ていた。
目だけが、笑っていた。
その夜、夢の中にまたあの人物が現れた。
「戻して。元に戻して」
今度は顔がはっきり見えた。
それは――私だった。
🔍 解説(オチ)
この話のポイントは「赤い紐」が自分自身ともう一人の“自分”を繋ぐものであることです。
赤い紐は、現実の主人公の腕から出ており、引っ張ることも切ることもできません。
そして夢に出てくるもう一人の「私」もまた、右袖に同じ紐をつけています。
つまり、「夢の中の私」と「現実の私」は、赤い紐でつながっている同一人物の二つの存在。
夢の中の「私」が言う「元に戻して」という言葉は、本来ひとつだった“私”の意識が分裂してしまったことを意味しています。
そして最後に、鏡に映る自分が「笑っていた」ことから、
意識の主導権がもう一人の“私”に乗っ取られつつあるという暗示で終わります。
解説(オチ)
この話のポイントは「赤い紐」が自分自身ともう一人の“自分”を繋ぐものであることです。
赤い紐は、現実の主人公の腕から出ており、引っ張ることも切ることもできません。
そして夢に出てくるもう一人の「私」もまた、右袖に同じ紐をつけています。
つまり、「夢の中の私」と「現実の私」は、赤い紐でつながっている同一人物の二つの存在。
夢の中の「私」が言う「元に戻して」という言葉は、本来ひとつだった“私”の意識が分裂してしまったことを意味しています。
そして最後に、鏡に映る自分が「笑っていた」ことから、
意識の主導権がもう一人の“私”に乗っ取られつつあるという暗示で終わります。
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