僕の家の近くには、小さな神社がある。
町外れにぽつんと立っていて、昼間でも少し薄暗く、子どもたちにはあまり人気がない場所だった。
けれど、僕はなぜかそこが好きで、小学校からの帰り道によく立ち寄っていた。
神社の脇には大きな木があって、その根元に、木製のベンチが一つ置かれていた。
ある日、そのベンチに赤いワンピースを着た女の子が座っていた。
年の頃は僕と同じくらい、髪には大きな赤いリボンがついていた。
「こんにちは」と声をかけると、女の子はにこっと笑って「一緒に遊ぼ」と言った。
それから、学校の帰りに何度か彼女に会った。
名前は教えてくれなかったが、僕たちはよく一緒に神社の境内で遊んだ。
でも、ある日突然、彼女は来なくなった。
心配になって神社の周りを探したが、どこにもいなかった。
母に聞いても、「そんな子見たことない」と言う。
不思議だったが、子どものことだからすぐに気を紛らわせ、新しい遊び相手を見つけていった。
それから数年が経ち、僕は中学生になった。
ある日、母と古いアルバムを見ていたときのこと。
ページをめくると、神社の前で撮った小学校時代の写真が出てきた。
その中に、僕が笑ってピースしている写真があった。
背景には、神社の鳥居と、例のベンチが写っている。
でも――そこには、ありえないものが写っていた。
僕のすぐ横、誰もいなかったはずの場所に、赤いリボンをつけた女の子がぼんやりと立っていた。
目線はまっすぐカメラを見ていて、笑っていない。
「え……この子、誰?」と聞いた僕に、母は険しい顔でこう言った。
「そんな子、いないわよ。あんた、一人で写ってるはずでしょ?」
写真をよく見ると、彼女の足元が地面に影を落としていなかった。
さらにその後、地元の図書館で「町の昔話」を調べていたときのこと。
ある記事が目に留まった。
『昭和62年、町外れの神社近くで、当時小学3年生の女の子が失踪。赤いワンピースに赤いリボンを着けていたという。いまだ未解決。』
僕は寒気がした。
日付を見ると――ちょうど、僕が彼女と会っていた“頃”だった。
解説(オチ)
この話の怖さは、主人公が遊んでいた女の子は生きた人間ではなかったという点にあります。
- 赤いワンピース、赤いリボンの少女は、昭和に失踪したまま未発見となっていた子。
- 主人公が写真に写る彼女には影がない=実体が存在していなかった。
- 写真には「一人で写っているはず」と母が言っており、記録にも残っていない人物。
- 地元の未解決事件を知らずに、偶然その少女と“遊んでいた”という時点で異常です。
つまり、彼は霊と無意識に接していたことになるのです。
彼女は何かを伝えたかったのか、それとも――ただ一緒にいたかったのか。
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