手紙の送り主

ある日、ポストに手紙が届いていた。差出人は不明。消印もない。

宛名は俺のフルネームで、明らかに手書きだった。
中を開けてみると、紙にびっしりと文章が書かれていた。

『あなたをずっと見ていました。
笑った顔も、泣いた夜も、眠っているときも。
あなたは本当にいい人ですね。
私と、もっと話がしたいです。』

気味が悪くなったが、悪意はなさそうなのでその日は捨てて終わりにした。

だが、それから数日おきに手紙が届くようになった。

内容は次第にエスカレートしていった。

『昨日は青いシャツを着ていましたね。
あのシャツ、私も持っています。おそろいですね。』

『あなたがよく行くコンビニ、あそこにいるときの顔が一番好きです。
店員さんに優しくしてましたね。』

どこかで見られている。そう思うと、外に出るのが怖くなった。

防犯カメラを見直したが、不審者の姿は映っていなかった。
警察にも相談したが、「脅迫性がない」として動いてくれなかった。

ある日、部屋に戻ると、玄関前に小さな箱が置かれていた。
中には、俺の写真が何枚も入っていた。コンビニの前、自宅前、電車内……すべて、盗撮されたものだ。

そして、その写真の裏には、手書きでこう書かれていた。

『あなたの後ろに写ってるの、気づきましたか?
写ってない日がないんですよ。
あの人、あなたが好きなんですね。きっと。
私も、その人のこと、最近よく見ます。』

慌てて写真を見返した。

確かに──どの写真にも、同じ女が背景のどこかに写っていた。

公園のベンチ、電車の端、コンビニの鏡。
髪が長く、うつむいているため表情は見えない。
だが、すべての写真に、微妙に距離を保ってその女がいる。

鳥肌が立った。

もしかして、この女が手紙の送り主なのか?

それとも、別の“何か”が?

次の手紙にはこう書かれていた。

『あなたに伝えたいことがあるのです。
彼女、だんだん近づいてきていますよ。
写真を見返してみてください。昨日のが、一番近いです。』

恐る恐る昨日届いた写真を見る。

そこには、俺が自室のカーテンを開けて外を見ている姿が写っていた。
撮影されたのは──部屋の中から。

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