学生時代、古いマンションで一人暮らしをしていた。
7階建ての5階。エレベーターもないボロい物件だったが、家賃が安かった。
ある日、夜中に窓の外から視線を感じて目が覚めた。
時計を見ると午前2時過ぎ。カーテン越しに何かが動いた気がした。
風かな、と思いながらカーテンをそっとめくると――そこには人の顔があった。
7階建ての5階。すぐ下にベランダもない。
ありえない。悲鳴を上げて、カーテンを一気に閉じた。
警察を呼んだが、「外から登ってくるのは難しい。見間違いでは?」と言われた。
それから数日後。
朝起きると、窓に手の跡がついていた。
外側に、くっきりと。内側じゃない。外側に。
高所恐怖症の自分は、ベランダの手すりすら滅多に触らない。
次の日、同じ階の住人に話してみたが、「俺も何か変なんだ」と言われた。
・窓に物音がする
・深夜にインターホンが鳴る
・玄関前に泥の足跡がついていた
そんなことが、ここ数週間で頻発しているらしい。
ある夜、階段の踊り場で会った住人に「このマンション、カギ閉めても入られるって噂、知ってます?」と聞かれた。
冗談だろうと思いながらも不安になり、寝る前に念入りにすべてのカギを確認した。
窓、玄関、補助錠も。
だが午前3時、また目が覚めた。
理由は――閉めたはずの窓が、少しだけ開いていたからだ。
ぞっとしてすぐに警察に通報。
巡回中の警官がすぐに駆けつけてくれたが、異常なし。
そのとき、警官の一人がぽつりと言った。
「ここの構造、外階段から屋上伝って行けちゃうんですよね。侵入の痕跡がないのが逆に変だな」
その後も何度か、窓が開いていたり、洗面所のタオルが濡れていたりといった異常が続いた。
我慢できずに引っ越したのは、その異変が始まってからちょうど一ヶ月後のこと。
最後の夜、引っ越し準備を終え、ベッドで眠ろうとしたときだった。
「カチ…カチ…カチ…」
窓の鍵を開ける音がした。
――誰かが中に入ろうとしている。
でももう、怖くて動けなかった。
翌朝、荷物をまとめて部屋を出たとき、外の廊下で管理人に会った。
「昨日、誰か上に来てませんでしたか?」
そう聞くと、彼は首を振りながらこう言った。
「この階に住んでたの、あんただけだったんだよ。もう3ヶ月以上ね」
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