鍵垢の彼女

彼女とはSNSで知り合った。
共通の趣味があり、最初はDMで軽くやり取りをしていただけだったが、徐々に会話は毎日続くようになり、やがて通話をするようになった。

アイコンはイラスト、名前もハンドルネーム。リアルの情報はほとんど明かさない子だったが、不思議と気が合った。
そしてある日、彼女から「LINE交換しよ?」と連絡が来た。
僕は少し戸惑ったけれど、迷った末にIDを送った。

通話もより頻繁になり、彼女の声にも慣れてきた頃、ふと彼女が言った。

「◯◯くんって、△△駅の近くに住んでるよね?」

僕はゾクリとした。そんな話はしていない。
「え、なんでわかったの?」
「だって、あのコンビニの裏の路地、よく行くって前にツイートしてたでしょ?」

…確かに、数年前の投稿でつぶやいた記憶がある。
でも、そんな昔のポストまでわざわざ漁ったのか?
不安になった僕は、鍵付きのアカウントに投稿していた内容を確認した。
彼女はそのアカウントをフォローしていない。

でも、彼女はその鍵垢に書いた内容を、まるで日記でも読んでるかのように知っていた。

その晩、僕は彼女との通話を切った後、部屋の窓に何かの気配を感じた。
カーテンの隙間から、スマホの光が一瞬、ちらついた気がした。

翌朝、ベランダに何かが落ちていた。
拾い上げると、それはスマホだった。画面には、見覚えのある自分の鍵垢のタイムライン。
パスワードも、ログイン情報も、完璧に記録されていた。

通知が鳴った。LINEだった。
「見つかっちゃった?」

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