録画に映った男

一人暮らしを始めて半年が経った頃、妙な出来事が起こり始めた。

最初は、深夜2時ちょうどにインターホンが鳴るだけだった。
モニターを確認しても、誰も映っていない。
風の音か、通りすがりの誰かが間違えて押したのかもしれないと思い、その日は特に気にせず眠った。

だが、それが3日続いた。

同じ時間、同じように鳴るインターホン。
不気味ではあったが、怖さよりも気味の悪さのほうが強かった。

4日目の朝、ポストに差出人不明の白い封筒が入っていた。
中には、1枚の写真。

それは──僕の寝室だった。
布団に入って寝ている自分の姿が、斜め上から撮られている。

一瞬で血の気が引いた。
鍵はかけていた。窓も閉まっていた。じゃあ、この写真は──誰が、いつ、どこから撮った?

すぐに警察に通報した。

警官が来て、部屋の中やベランダ、玄関の鍵を確認してくれた。
だが、侵入の痕跡はなく、防犯カメラにも不審者は映っていなかった。

「いたずらの可能性もありますが……」という曖昧な言葉を残して、警察は帰っていった。

だが、その夜もまた、インターホンが鳴った。
いつものようにモニターには何も映らない。
だが、どうしても気になった僕は、スマートフォンを三脚に固定し、インターホンの画面を動画で録画することにした。

深夜2時。インターホンの音が鳴る。

録画を再生してみると、そこにはモニターに男の顔が映っていた。
モニター越しに、カメラにじっと目を向けている。

目元は隠れていたが、口元には歪んだ笑み。
そしてその男の手には、僕の部屋の鍵が握られていた。

その夜、僕は眠れなかった。
翌日すぐに鍵を交換し、管理会社に連絡して、事情を話した。

だが、管理会社の対応も妙だった。

「ええ、前の入居者も……確か、深夜に誰かが来るって言って退去したんですよ」

僕は言葉を失った。

部屋の中には侵入の痕跡もない。
警察も、防犯カメラも、何も捉えていない。

でも、“あの男”は確かに映っていた。
モニターには映らなくても、スマホのカメラには映る何かが。

今も、録画した動画はスマホに残っている。
再生するたび、男は確かにそこにいる。

そして、インターホンは……今も、時々、鳴る。

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