高齢の祖母が一人暮らしをしていた。
最近足腰が弱くなってきたこともあり、家族の提案で「見守りカメラ」を設置することになった。
居間の隅に小さなカメラを設置し、スマホでリアルタイム映像を確認できるようにした。
通知設定をオンにすれば、「動きがあったとき」だけ録画され、スマホに通知が来る。
設置して1週間ほど経った頃、私はそのアプリに何件かの通知が届いていることに気づいた。
時刻は、深夜2時〜3時の間。
「祖母が夜中に起きて動いたのかな?」と思いながら録画を再生すると、居間の電気が消えた暗闇の中、
玄関のドア付近を横切る人影が映っていた。
私は一瞬ぞっとした。
「まさか、泥棒……?」
すぐに警察に相談した。
だが、玄関の鍵は内側からかかっており、窓も施錠されたままだった。
警察は「誤作動かもしれませんね」と言ったが、映像にははっきりと“人の形”をした影が映っていた。
念のため祖母に「夜中に誰か来た?」と聞いてみたが、
彼女はこう言った。
「……知らない男の人が、キッチンのあたりに立ってた気がするけど……夢かと思ってたよ」
それを聞いて、私は祖母の家に泊まり込みで見守ることにした。
その夜。
深夜2時半、私はカメラのアラームで目を覚ました。
スマホには「動体検知」の通知。
恐る恐るカメラ映像を確認すると──
居間の隅、カメラの真正面に人影が立っていた。
しかも、その人影はカメラのレンズを真っ直ぐ見ていた。
私はすぐに警察へ通報した。
懐中電灯を持って恐る恐る居間へ向かうと……そこには誰もいなかった。
玄関も窓もすべて閉まっていた。
だが、床に裸足の足跡がいくつも残っていた。
警察が到着して調査をしたが、侵入の痕跡は見つからず、やはり「外部犯ではない可能性が高い」と言われた。
その日の夜、祖母と一緒に寝ていたとき、ふと彼女がつぶやいた。
「昔もいたんだよ、あの人……」
「え?」
「若い頃、よく部屋の隅に立っててね……。
ずっと“見てる”だけで……。
でも、ある日突然いなくなったと思ったら、今また戻ってきたみたい」
私は凍りついた。
祖母の妄想なのか、あるいは──本当に、何かが「戻ってきた」のか。
それから数日後、私は見守りカメラの設定を変更し、クラウドに保存された過去の映像をすべて確認した。
すると、ある異常な事実に気づいた。
人影が映っているのは、決まって“私が通知をオフにしていた日の深夜”だけだった。
そして、映像に映る人影の中には──
私が祖母と並んで寝ている映像の“背後”に立っている何かも含まれていた。
私は怖くなり、祖母を自宅に引き取り、見守りカメラは取り外した。
それから1ヶ月。
祖母は元気に過ごしている。
……ただ、一度だけ。
祖母が夜中にポツリとつぶやいた。
「今日も、あの人が“後ろ”にいたよ。
前はキッチンだったけど、今はあなたのほうを見てるのね」
コメント