背後の足音

夜11時過ぎ、仕事帰りにコンビニへ立ち寄った。
買い物を済ませて家へ向かう途中、普段よりも少し近道をしようと、駅裏の細い商店街を抜ける路地を選んだ。

周囲には人影もなく、静まり返っていた。
途中、背後からコツ……コツ……と、誰かの足音が聞こえてきた。

最初は「誰か同じ方向に帰っているのだろう」と思ったが、角を曲がっても足音はぴったりとついてくる。
怖くなって振り返ると、誰もいない。

でも、また歩き出すと足音も再開する。
今度は少し速足で進んでみると、足音も同じテンポで速くなる。
次第に心臓が早鐘のように鳴り、ついには小走りでマンションのオートロックまで駆け込んだ。

安心したのも束の間、マンションのエントランスに入った瞬間、すぐ背後から「カツン……カツン……」と硬い音が続いた。
誰かがヒールで床を踏み鳴らしているような、不気味な音。

エレベーターのドアを閉めるまで、決して後ろを振り返らなかった。
6階の自室に到着し、玄関の鍵を閉めると、ようやく少し安心できた。

だが、その瞬間だった。
玄関の向こう側から「トン……トン……」と、ノック音のような音がした。

恐る恐るインターホンを確認すると、画面には誰も映っていなかった。
いや、ノイズのような影が、かすかに揺れていた。

翌日、管理人に事情を話し、防犯カメラの映像を確認させてもらった。
録画には、マンションに入る僕のすぐ後ろに、黒い服を着た人物が映っていた。
うつむいたまま、顔はよく見えない。

だが映像を巻き戻していくと、背筋が凍った。
その人物、僕が通った数分前から、すでにマンションの周囲を何度も往復していた。

管理人は画面を見つめながら、ぽつりとつぶやいた。

「この人……3年前に見たことがある」
「上の階に住んでた女性がストーカー被害で突然いなくなった時、同じ顔がカメラに映ってたんだよ」

その女性はいまだに行方不明のままだという。
警察も動いたが、手がかりはなく、事件としても迷宮入りになっていた。

それ以来、僕はあの道を通らなくなった。

でも時々、夜中に部屋の前で「コツ……コツ……」という音がすることがある。
玄関を開ける勇気は──もうない。

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