私が住んでいるマンションは、都内にあるいわゆる「ワンルーム」タイプで、学生や独身者が多く暮らしている。
その中でも、私の部屋は角部屋で、片隣は空室になっていると聞いていた。
ある日、夜にコンビニから戻ると、隣の部屋の前に誰かが立っていた。
暗くて顔は見えなかったが、細身の中年男性のように見えた。私は軽く会釈したが、彼は微動だにしなかった。
次の日、管理人に「隣って誰か入ったんですか?」と尋ねてみた。
すると「ああ、あそこは半年以上空いてますよ」と即答された。
おかしいと思いながらも、気にしないようにしていた。
しかしそれから数日間、私の部屋のポストに、宛名も何も書かれていない封筒が毎晩投函されるようになった。
中身は毎回違った。紙切れ一枚だったり、1円玉だったり、小さなボタンだったり。
そしてある晩、私は寝ている最中に金縛りに遭った。
体は動かず、天井だけが妙に明るい。光源を探そうと視線を巡らせると、ベランダの窓の外に人の顔が浮かんでいた。
細身の中年男性。あの日見た男と同じだ。
そのとき、玄関から「ガチャ」と鍵を開ける音がした。
心臓が跳ね上がる。鍵はかけてあるはずだ。
必死で体を動かそうとしたその瞬間、目が覚めた。夢だった。
……だが、ベランダの窓には、内側からうっすらとついた手の跡が残っていた。
そして翌朝、ポストには白い紙が一枚入っていた。
そこには、こう書かれていた。
「二人暮らし、お疲れさまです。」
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