ある日、スマートフォンに“謎の通知”が届いた。
『あなたの部屋に新しいメモが追加されました』
そんなアプリ、入れた覚えはない。
通知をタップしても何も起こらない。
どのアプリが出している通知なのかも不明だった。
「バグかな」と思って放置していたが、その日から妙なことが増えていった。
まず、スマホのバッテリーの減りが異常に早くなった。
スリープ状態でも1時間に20%ずつ消えていく。
そしてある夜、寝ようとベッドに横になったとき。
「ピコン」
またあの通知が来た。
『あなたの部屋に新しいメモが追加されました』
──時刻は深夜2時12分。
部屋の電気は消していた。カーテンも閉めていた。
気味が悪くなり、部屋中を確認したが、誰もいない。
ただ、机の上の付箋がひとつ増えていた。
「きょうはよくねむってたね」
鳥肌が立った。
私はその付箋を写真に撮り、すぐ捨てた。
翌日、スマホの中のアプリをすべて確認したが、それらしきものはなかった。
仕方なく、端末を初期化した。
一安心──したのもつかの間。
夜、また通知が来た。
『あなたの部屋に新しいメモが追加されました』
……初期化したはずなのに。
その晩、私は眠れなかった。
そして、次の週。
職場の同僚がスマホをいじっていたとき、ふと私の名前が聞こえた。
「……ねえ、これ、◯◯(私)じゃない?」
見せられたのは匿名掲示板のスクリーンショット。
そこには、私の部屋の写真が投稿されていた。
しかも、何枚も。
ベッドで寝ている私、パソコンの前で作業している私、着替えている最中の後ろ姿。
全部、自分でも見覚えがない角度から撮られている。
「これ……どこから撮ったの?」
「わからない。投稿者は“盗撮カメラ収集家”って名乗ってる。
他にも数十人分の部屋が上がってて、なぜかお前だけ名前付きだった」
急いで警察に相談した。
が、現状では「犯罪として立証できない」とのこと。
「ご自宅に盗撮機器が仕掛けられている可能性があります。すぐに業者を呼んで確認を」
調査を依頼したところ──見つかった。
コンセント型の隠しカメラが、部屋の2ヶ所に仕掛けられていた。
しかもそれは、以前この部屋を借りていた人物が設置した可能性が高いという。
「この部屋、前の住人が最後まで鍵を返さなかったんです。
スペアキーで一時的に入っていたこともあったかもしれません」
私がこの部屋に引っ越してきてから半年。
その間、ずっと誰かに見られていたということか。
それ以来、スマホの通知はピタリと止んだ。
でも、私の中で何かが壊れてしまった。
あの写真は、今もネットのどこかに残っているのだろうか。
そして──あの通知は、本当に「ただのアプリのバグ」だったのだろうか。
それとも、
見ていた“誰か”が、私に向けて残した合図だったのだろうか。
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