大学1年の頃、スマホに突然、見覚えのない番号から着信があった。
非通知ではなく、市内局番だったので「誰かの間違いかな」と思い、無視した。
だが、次の日も同じ番号から電話が来た。
試しに出てみると、無言のまま数秒が経ち、最後にひとことだけ聞こえた。
「……見てるよ」
背筋がゾッとした。すぐに切り、番号をブロックした。
その夜、家の近くのコンビニに立ち寄った帰り道、背後に視線を感じた。
振り返っても誰もいない。だが妙に気配を感じた。
しばらくは気のせいかと思い込もうとした。
だが、その数日後──今度は大学の講義室で席に着いていると、隣に座ってきた男がいた。
知らない顔。見覚えもない。
だが、なんとなく“あの声”と似ている気がしてならなかった。
男は無言のまま、こちらをチラチラと見てくる。
私は不快に感じて席を移動したが、その日から毎日のように、その男が現れるようになった。
どの講義にも現れる。学部も学年も違うはずなのに、なぜか必ず近くにいる。
ある日、思い切って友人に相談すると、「じゃあ後ろから写真撮ってみよう」と提案された。
彼が講義中に男の写真をこっそり撮ってくれた。
──だが、写真には誰も写っていなかった。
そこには、空っぽの席だけが映っていた。
私は「何かの不具合だろう」と無理やり納得しようとした。
だが翌日、その友人が不気味なことを言った。
「昨日、家帰る途中ずっと視線感じてさ。背後、ついて来てる気配があったんだよ。けど振り返ると誰もいなくて──で、今朝気づいたんだけど、スマホの通知欄に“見てるよ”ってメモが勝手に残ってた」
鳥肌が立った。
私はすぐにスマホを確認した。
──やはり、自分のメモ帳にも、“見てるよ”というメモが残っていた。日付は“2018年3月13日 午前3:33”
起きてすらいない時間だった。
そこからしばらくして、その男はぱったりと姿を見せなくなった。
電話も来なくなり、気配もしなくなった。
ただ、ある日ふと気づいた。
大学の学生掲示板に、卒業生たちの記念写真が貼られていた。
その中に──あの男が写っていた。
日付は15年前。2003年の卒業アルバム。
彼の名前の横には、赤いペンでこう書かれていた。
「目が合った人、見てるよ」
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