私はずっと一人暮らしをしている。
自宅はオートロック付きのマンションで、セキュリティには自信がある。
職場も近く、生活の不便もなかった。
ただ、ここ最近、妙な違和感を覚えることが増えてきた。
特に夜。
帰宅して玄関を開けた瞬間、誰かの気配を感じる。
電気をつけても誰もいないし、何かが動いた形跡もない。
「疲れてるだけだろう」と思い込んでいた。
でも、冷蔵庫の中のジュースが減っていたり、風呂場のタオルが濡れていたりする日が何度か続いた。
最初は「自分でやったのを忘れてるだけだ」と思い込んでいたが、それにしてもおかしい。
ある日、ついに決定的なことが起こった。
仕事から帰ると、ベランダの窓が数センチ開いていた。
もちろん朝は閉めて鍵もかけたのを覚えている。
しかも、ベランダの外は3階の高さ。隣室のベランダとも離れており、外から侵入するのはまず不可能。
私は怖くなり、警察に連絡した。
警察官が部屋の中を調べてくれたが、「誰もいない」「侵入の痕跡はない」とのことだった。
それでも、私は不安だった。
その夜、スマホで安価な監視カメラを注文した。
数日後、届いたカメラをリビングと玄関に設置し、出勤時に録画モードをONにした。
最初の2日間は何も起こらなかった。
3日目の夜、帰宅して映像を確認すると――玄関が無人のままゆっくり開いている映像が映っていた。
鍵は閉めて出たはずだ。
誰かが合鍵で入ったのか?
私は震える手でその日の記録を最後まで見た。
そこには、冷蔵庫を開け、テレビをつけ、ソファに寝転ぶ男の姿が映っていた。
私はその映像を見ながら、自分の記憶を必死に辿った。
…見覚えがない男だった。
彼は堂々と室内でくつろぎ、時間になると再び玄関から出て行った。
まるで――自分の部屋かのように。
私はすぐに警察へ通報し、映像も提出した。
調査の結果、驚くべき事実が判明した。
彼は、上の階の住人だった。
部屋を間違えていたわけではない。
実は、私が住むこの部屋は、以前その男が数年間住んでいた部屋だったのだ。
オーナーが変わり、住人も入れ替わったことを知らず、彼は古い合鍵を使って侵入し続けていた。
なぜ気づかれなかったのか?
それは、私が仕事に出ている時間だけを狙って来ていたからだった。
警察に連行された男はこう言ったそうだ。
「何度か見かけたけど、挨拶しても無視された。だから、自分がまだ住んでるつもりだった」
…挨拶など、一度もされた覚えはない。
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