投稿一覧
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あの部屋には入らないで
私たち家族がその家に引っ越してきたのは、春の終わりだった。夫の転勤先に近く、築年数の割に妙に安い家賃に惹かれて契約を決めた。 古い一軒家で、六畳三間の和室が続く作り。少しカビ臭かったけれど、掃除すればなんとかなると思った。ただ、二階の一番... -
今日の訪問者
午前10時。私はいつものように在宅ワークをしていた。 この仕事を始めてから、人と会うことはめっきり減ったけど、静かな時間が好きだった。最近は家の中でできることも増えて、食料も日用品も全部ネットで済む。こんな生活、最高じゃないかと思うくらいだ... -
親切なおじさん
大学からの帰り道、夕方の公園で私は見知らぬ中年男性に声をかけられた。 「ちょっといいかな、お嬢さん。道を尋ねたいんだ」 その人は背広姿で、手にスマホを持っていた。40代くらいだろうか。私は警戒しながらも、あからさまに無視するのも気が引けて、... -
鏡の奥にいたのは
私が大学2年の頃、祖母が亡くなった。 法要のため、実家に帰省した私は、祖母が生前暮らしていた部屋に泊まることになった。その部屋は、昔から少しだけ苦手だった。特に、壁に掛けられた大きな鏡が怖くて、子どもの頃は目を合わせられなかった。 けれど大... -
帰ってきた娘
その日、娘が無事に帰ってきた。 行方不明になってから丸2日。家族は警察と一緒に山中を捜索し、奇跡的に保護されたという。 保護されたのは、山奥の登山道近くにある小屋だった。ボランティアの男性がたまたま中にいるのを見つけ、通報してくれたらしい。... -
その通知、あなたに届いていますか?
ある日、スマートフォンに“謎の通知”が届いた。 『あなたの部屋に新しいメモが追加されました』 そんなアプリ、入れた覚えはない。 通知をタップしても何も起こらない。どのアプリが出している通知なのかも不明だった。 「バグかな」と思って放置していた... -
最後の乗客
タクシー運転手をやっていると、不思議なことにたまに遭遇する。この仕事を始めて20年になるが、今でも忘れられない夜がある。 その日は土曜の深夜2時を回ったころだった。 繁華街での客足も落ち着き、車内でラジオを流しながらひと息ついていたとき、バッ... -
もう一人のお父さん
娘が「保育園で描いたんだ〜」と、小さなスケッチブックを嬉しそうに見せてきた。 表紙には「いえでの いちにち」と書かれている。いわゆる、“家族の一日”をテーマにした絵日記らしい。 ページをめくると、色鉛筆で描かれた家族の絵が出てきた。 1ページ目... -
静かな部屋
転職を機に一人暮らしを始めた。会社から徒歩10分ほどの築浅マンションで、立地のわりに家賃も安く、内見のときもとても静かだった。壁も厚く、防音もしっかりしている。 ……と、思っていた。 入居して数日後、夜に家でくつろいでいると、壁の向こうからか... -
見上げている窓
学生時代、私は東京郊外の古いアパートに住んでいた。築30年以上の2階建てで、私の部屋は1階の一番奥、日当たりの悪い角部屋だった。 隣室もほとんど空き部屋で、全体的に寂れた雰囲気があった。けれど家賃が格安だったため、特に気にせず住んでいた。 あ... -
2つ目のランドセル
小学1年生の娘を持つ父親です。妻と3人で静かに暮らしており、娘の学校生活にもようやく慣れてきた様子で、毎日元気に登校しています。 朝は私が仕事で早いため、娘の登校は主に妻に任せています。夜はできる限り早く帰宅して、夕食を一緒に取るようにして... -
不在票
引っ越してきて1ヶ月ほどが経った頃。その日も普通に仕事を終えて、夜8時すぎに帰宅した。 玄関を開けると、ドアポストに不在票が入っていた。 『◯月◯日 18:40 ご不在のため持ち帰りました』 宅配便だった。 特に注文した覚えはなかったが、名前と住所は...