投稿一覧
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止まったエレベーター
その日は、仕事が押して帰宅が深夜になった。 同僚とのやりとりで気疲れしていた僕は、無言で電車に揺られながら、早く布団に倒れ込みたいと願っていた。 ようやく最寄駅に着き、閑静な住宅街を歩く。人通りもなく、街灯の下に自分の影が細長く伸びてい... -
戻った目
僕の部屋には、小さな棚がある。そこに古びたぬいぐるみが一体、置かれている。 白くて、くたびれたウサギの形。母が幼い頃に買ってくれたもので、捨てるタイミングを逃してそのままになっていた。 片目が取れかけ、耳もほつれていて、正直言って少し不... -
空き部屋の鍵
僕が大学2年のときに住んでいたアパートは、築30年近い古い木造だった。 安さに惹かれて選んだ物件で、風呂トイレ別で家賃は3万円ちょっと。周囲には学生が多く、特に不満もなかった。 隣の部屋──つまり「203号室」だけは、ずっと空き部屋のままだった... -
午後4時44分の訪問者
大学生の夏休み、僕は田舎の祖母の家に1週間ほど滞在することになった。 祖母はとても元気で優しい人だが、築80年を超える古い日本家屋には、やはりどこか独特の雰囲気があった。 滞在3日目の午後、縁側で本を読んでいた僕に、祖母が話しかけてきた。 ... -
ミカの給食
中学2年の春、僕のクラスに「ミカ」という名前の、少し不思議な女の子がいた。 彼女はどちらかというと無口で、目立たないタイプ。誰かとつるむこともなく、休み時間も机に座ってノートに何かを書いているような子だった。 でも、給食の時間になると少... -
同じ鍵を持つ男
私は大学を卒業してすぐ、郊外の賃貸マンションで一人暮らしを始めた。 新築ではなかったが、築10年ほどで清潔感もあり、なによりオートロック付きという点に安心感を覚えた。 引っ越し当初は何も問題なく、快適な生活を送っていた。 だが、ある日を境... -
赤い女の部屋
社会人2年目の春、私は念願だった一人暮らしを始めた。 都内では珍しい2DKで、築年数の割に家賃も安かった。 最初の内見のとき、部屋の空気はどこかひんやりしていた。 でも、日当たりも良くて間取りも悪くない。引っ越し業者の見積もりも取って、私は... -
返ってきたメッセージ
大学時代の友人、ミナとは卒業後もよく連絡を取り合っていた。 お互い忙しい身だったが、週に一度くらいはLINEで他愛のない話をやりとりしていた。 ある日、私はいつものように「元気?」と送った。 すると、すぐに「元気だよ。あんたは?」と返ってき... -
防犯カメラに映っていたのは
私は地方の小さなアパートで一人暮らしをしている社会人だ。仕事はリモート中心のシステム関係。平日はほとんど家にいる。 ある日、管理会社から「最近、住民の荷物が荒らされるという報告があった」との連絡が入った。 私は玄関前に宅配BOXを使うこと... -
隣の部屋の住人
私は大学進学を機に、地方から東京へと引っ越してきた。 築年数は古いが家賃の安いワンルームマンション。都心からは少し離れているが、通学には不便しない場所だった。 引っ越し初日の夜、荷ほどきもそこそこにベッドに入ろうとした時、隣の部屋から「... -
三人暮らし
私は母と弟との三人暮らしだ。 父は私が中学生の頃に事故で亡くなり、それ以来、母が女手ひとつで私たちを育ててくれた。弟は私より4つ年下で、無口だけれど素直で優しい子だ。 母は介護施設で働いていて、朝早く出て夜遅く帰る。そのため、私は学校から帰... -
助けたつもりだった
その日、私はいつもより少し早く会社を出た。まだ陽がある時間帯に帰れるなんて久しぶりだった。 家までは電車で20分、駅からは徒歩15分の住宅街。住宅街に入ったあたりで、小さな公園の前を通ったときのことだ。 「すみません……」 女の子の声がした。 小...