私は地方の小さなアパートで一人暮らしをしている社会人だ。仕事はリモート中心のシステム関係。平日はほとんど家にいる。
ある日、管理会社から「最近、住民の荷物が荒らされるという報告があった」との連絡が入った。
私は玄関前に宅配BOXを使うことが多く、何かあったかと思い確認したが、特に問題はないようだった。
ただ、気味が悪かったのは、数日前にアマゾンで注文した荷物が「配達完了」になっているのに届いていなかったことだ。
配達ミスだろうか……。そう思っていたが、その後も似たようなことが2度続いた。
そこで私は、安い防犯カメラを購入して玄関の上に設置した。夜間でも映る赤外線タイプだ。
設定が完了して数日後、また荷物が届かず「配達済み」と表示されていたので、カメラの録画を確認してみた。
──そこには、驚くべき映像が残っていた。
20時過ぎ、私の部屋の前に宅配業者が荷物を置き、去っていく。
その5分後、フードを深くかぶった中肉中背の男が現れ、あたりを見回したあと、サッと荷物を持ち去っていった。
「やっぱり盗まれてたのか……」と私はゾッとした。
その瞬間、画面の右端に映った男の横顔が一瞬見えた。
私は息をのんだ。
──それは、同じアパートの住人だった。
いつもすれ違うと「お疲れ様です」と声をかけてくれる、20代後半くらいの男性。
明るく爽やかで、隣近所からも評判の良い人物だ。
まさか、あの人が──。
私はすぐに管理会社に録画映像を提出し、警察にも相談した。
が、映像が決定的な証拠とまでは言えず、警察は「慎重に様子を見て」との返答だった。
それ以来、その男は私の顔を見ても一切挨拶をしなくなった。
ただ、夜になると私の部屋の前を通る足音が、以前よりゆっくりになった気がしてならない。
ある晩、私は玄関に貼り紙をした。
「防犯カメラ作動中」
それからというもの、荷物は無事に届くようになった。
だが、翌朝、貼り紙の下にこう書き加えられていた。
「カメラがあるから、触ってないよ。今はね」
それを見た瞬間、私は震えた。
恐ろしいのは、幽霊よりも──人間かもしれない。
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