つながった通話

大学時代の友人に、妙な男がいた。

斉藤という男で、特別変わったところはないのだが、「通話が苦手」だと常に言っていた。
LINEのやり取りは普通にするし、会えばよく喋る。
けれど、電話になると絶対に出ない。
こちらからかけても折り返してこないし、「用があるならメッセして」と返される。

そんな彼と久しぶりに会うことになった。
大学卒業から3年ぶりの再会だった。

当日、集合場所に現れた斉藤は、昔と変わらず元気そうだった。
一緒に飲みに行き、居酒屋でたわいもない話をして盛り上がった。

「そういえば、相変わらず電話嫌いなの?」

と聞くと、斉藤は少し困ったように笑った。

「いや、最近はちょっとだけマシになったよ。
……でも、あれ以来はやっぱり無理だけど」

「“あれ以来”?何かあったの?」

斉藤は一瞬だけ黙り込み、ビールを一口飲んでからこう言った。

「電話ってさ……つながってる相手しか話しちゃいけないって、思わない?」

「そりゃそうだろ」

「でも……もし、誰ともつながってない“はず”の電話が、誰かとつながってたら、どう思う?」

「どういうこと?」

斉藤は話し始めた。

ある夜、彼は終電を逃し、大学近くの公園で始発を待つことにしたという。
ベンチに座り、眠気に耐えながらスマホをいじっていたところ、誤って誰かに発信してしまったらしい。

「あ、やべ。間違ってかけた」

そう思ってすぐに切ろうとしたその瞬間、相手が出たという。

深夜2時半。
しかも、非通知設定での発信だったにも関わらず。

「もしもし……?」

その声は、男でも女でもないような、くぐもった低音だったという。
ぞっとした斉藤はすぐに通話を切った。

だが、5秒後、スマホに着信が入った。

“非通知”からの着信だった。

恐る恐る取ると、さっきと同じ声でこう言われた。

「どうして切ったの?」

斉藤は、黙って通話を終了し、そのままスマホの電源を切った。

翌日から、彼は電話に出なくなったという。

「……まあ、偶然なんだろうけどさ。でも、それ以来ずっと気持ち悪くて」

そう言って、斉藤は笑った。

それから1週間ほどして、俺は夜中にふと目が覚めた。

スマホを見ると、非通知からの不在着信があった。
着信履歴には「2:32」と表示されていた。

不気味に思いながらも、通話履歴を辿っていくと、あることに気がついた。

その1分前、俺が“誰かに電話をかけていた”履歴があった。

「非通知・発信中・2:31」

……そんな発信、した覚えはない。
誰にかけたのかも不明だ。

あの夜から、毎晩のように「非通知着信」が続いている。

俺は電話に出ていない。
出るつもりもない。

けれど……さっき、LINEにメッセージが届いた。

送信者は「斉藤」。

「切ると、かけ返してくるよ。
今度は“つながる”から、気をつけてね」

──いや、待てよ。

斉藤、あの日以来、事故で亡くなったんじゃなかったか?


■ 解説

表向きは「非通知の着信が怖い話」のように見えるが、
実は**主人公はすでに“つながってしまっている”**ことがラストで判明する。

・非通知での発信が記録されている
・受信と発信の時間がつながっている
・「斉藤からのLINE」は本来届くはずがない(既に故人)

つまり、**“つながったら終わり”**という斉藤の警告は、
彼自身がすでに“非通知の世界”へと連れて行かれた存在であることを意味し、
今度は主人公がその対象になりかけている──というのがこの話の本当の怖さ。

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