ある郊外の住宅地での話。
私はカメラ好きの男で、休日にはよく近所の公園や街角でスナップ写真を撮っていた。
その日も天気が良かったので、古い商店街の裏路地を歩いていた。
細い道の先に、誰もいないはずの空き地が見えた。
でもその奥に、小さな女の子がぽつんと立っていた。
赤いランドセルを背負い、黒髪をツインテールに結んでいる。
私がカメラを向けると、その子はこちらに気づいた様子もなく、ただじっと立ち尽くしていた。
なんとなく気になって、声をかけてみた。
「どうしたの? こんなところで一人で危ないよ?」
女の子は無言でうつむいたまま。
まばたきもせず、かすかに震えているように見えた。
不安になった私は、交番に連絡することにした。
スマホを取り出し、目を離したその瞬間――
女の子はいなくなっていた。
驚いて辺りを見回すが、逃げた気配も足音もない。
だが、足元を見ると、真新しい赤いランドセルだけが、ぽつんと置かれていた。
不思議に思いながらも、その場から離れた。
家に帰って、今日撮った写真を確認してみた。
女の子が立っていた空き地の写真。
何枚も撮ったはずなのに、どれを見ても――誰も写っていない。
ただ、写真の奥にある古びた壁に、小さく赤い文字でこう書かれていた。
『この子を見つけてくれてありがとう。』
背筋が凍った。
あの女の子は、何だったのだろう。
怖くなってカメラを閉じようとしたその時、最後の1枚にだけ――私のすぐ後ろに立っている女の子の姿が写っていた。
私はそれ以来、カメラを触っていない。
解説
この話の怖さは、写真に写らない女の子が、最後だけ“撮影者の背後に”現れた点にあります。
- 写真には女の子が写っていなかった → 実在しない存在
- にもかかわらず、最後の1枚にはしっかりと“後ろ”に立っている
- つまり、女の子は「見つけてくれたお礼」として、彼の元に“来た”と解釈できる
また、壁の文字「見つけてくれてありがとう」は人間が書ける位置ではないため、誰が書いたのか…という不気味さも残ります。
コメント