大学生の頃、夜勤のバイトでコンビニに勤めていた。
場所は郊外の住宅街にある小さな店舗。夜間の客は少なく、深夜2時を過ぎればほとんど来ない。
バイト仲間は同い年の斉藤という男で、二人で交代しながら勤務していた。
基本はワンオペだけど、深夜の2時から3時は商品の棚卸しがあるため、二人で対応することになっていた。
ある日、斉藤が体調不良で休みになり、急遽その時間も一人で勤務することになった。
「問題ないですよ」と言ったが、内心少し不安だった。
深夜のコンビニは不気味だ。照明の明るさが妙に冷たく、商品の並ぶ棚が無機質に並ぶ静寂。自分の足音すら、異様に大きく響く。
その夜も、2時を回った頃だった。
ふと店内に誰かが入ってきた。20代前半くらいの女性。スウェットにサンダル、ややボサボサの髪。深夜にしては珍しく、明るい表情をしていた。
「すみません、これって温めてもらえますか?」
と、パスタを差し出してきた。
「あ、はい。すぐに温めますね」
と電子レンジに入れて、チンと鳴るのを待つ。
その間、彼女は店内をふらふらと歩き回り、時折こちらをチラチラ見ていた。
(なんか落ち着かないな……)
と思っていると、彼女が急にカウンターに戻ってきて言った。
「閉店してるのに大変ですね」
「えっ? 閉店って……?」
「ほら、外の看板の電気、消えてましたよ。普通、閉まってる時間なんじゃないですか?」
確かに、外の電気が切れていることに気づいた。いつもならコンビニの緑と白の明かりが灯っているはずだ。故障かな? と思いながらも、パスタを温めて手渡すと、彼女はニコッと笑って出て行った。
その時、何かがおかしいと感じた。
……自動ドアが、開かなかったのだ。
彼女は手でドアを押して出ていった。自動ドアなのに。
(壊れてる?)と近づいてみたが、センサーは反応していて、私が近づくとちゃんと開いた。
それから数分後、斉藤からLINEが届いた。
「大丈夫? 急に店の電気消えててさ。通報あったら困ると思って見に来たけど、入れなかったよ。ガラスにカーテン閉まってて、中が見えなかった」
私はすぐ返信した。「今、普通に営業中だよ。誰か女性客も来てたし」
……その瞬間、背筋が凍った。
この店に、カーテンなんてついてない。
次の瞬間、店内の照明がバチンと一斉に落ちた。真っ暗になった店内。電子音が止まり、レジの液晶がブラックアウトした。
「……いらっしゃいませ」
レジの奥から、聞いたことのない声がした。
モニター越しの監視カメラを確認すると、レジの中に、さっきの女性が立っていた。
私の制服を着て、無表情でモニターを見つめていた。
※ 解説(オチ)
この話の怖さは、“最初に入ってきた女性が人間ではなかった”点にある。
閉店しているはずの店に入ってきたのも、自動ドアが反応しなかったのも、現実ではなく“幽霊の世界”だった可能性がある。
また、斉藤が来たとき「中が見えなかった」「カーテンがかかっていた」という描写から、現実の店とズレた世界に主人公が入り込んでいたと推測できる。
最後にレジの中にいた女性が、主人公の制服を着ていたことから、“入れ替わり”や“取り憑き”のような現象が起きたことが示唆されている。
つまり、主人公はいつの間にか現実世界から消えており、代わりに“あの女”が店員として存在しているのだ。
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