最近、祖母の様子が少しおかしくなってきた。
ひとり暮らしで足腰も弱ってきたので、母の提案で実家に見守りカメラを設置することになった。
玄関、リビング、キッチンに小さなカメラを置き、スマホで映像が確認できる。
最初の数日は何事もなく、祖母も「なんだか安心する」と言ってくれた。
だが、ある日。
母がスマホでカメラの映像をチェックしていると、リビングの映像に知らない男が映っていた。
祖母と話している様子ではなく、ただ立っている。
玄関のカメラには誰も映っていなかった。外部からの侵入の形跡はない。
慌てて電話をかけたが、祖母は「誰も来てないよ」と言う。
警察に相談し、録画映像を確認してもらったが、「映像の乱れか、光の反射ではないか」という結論にされた。
その翌日から、祖母が「夜に誰かがキッチンで何かしている」と言い出した。
見守りカメラの映像を確認すると、確かに深夜3時頃に冷蔵庫が勝手に開いていた。
中のものが少しずつ減っている。
それでも祖母は「夢かと思ってた」と言う。
我慢できず、父が一晩だけ実家に泊まることになった。
翌朝、父は青ざめた顔で帰ってきた。
「夜中に、誰かが廊下を歩いていた。音がしたんだ。でも部屋を開けても誰もいなかった」
カメラの映像には、また男の姿が映っていた。
そして数日後。
祖母が「あなたの名前を呼んでいた男がいたよ」と言った。
僕の名前を、夜中に?
不安になり、自分でも映像を確認した。
リビングのカメラに、カーテンの裏から覗く目が一瞬映った。
そして、祖母に何かを話しかけた直後、カメラが一時的にブラックアウトした。
画面が戻ったとき、男はいなかった。
それから祖母は急激に体調を崩し、入院することになった。
引越し準備のため実家に行ったとき、見守りカメラを外そうとした。
だがそのとき、スマホに通知が入った。
「リビングに動きがありました」
カメラはまだ起動していた。
映像を確認すると、リビングの真ん中に立つ男の背中が映っていた。
こちらにゆっくりと振り返るその顔は――
祖母のスマホのロック画面と、まったく同じ笑顔だった。
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