地元で有名な“出る”と噂の廃校がある。
小高い山の上にぽつんと建つ旧中学校で、十数年前に統廃合で閉鎖されて以来、誰も使っていない。
昔は肝試しスポットとして人気だったが、ある年を境に誰も近づかなくなった。
理由は、**“夜だけ校舎の明かりがつく”**という話が広まったからだ。
実際、山のふもとから見上げると、たまに窓の奥にぼんやりと明かりが灯っていることがある。
電気は止められているはずだし、監視もいない。なのに。
地元の友人・浩志と俺は、ある夜それを確かめに行くことにした。
懐中電灯を持って山道を登り、校門をくぐると、校舎の窓に確かに光が見えた。
でも、不思議なことに……廊下の奥からも明かりがにじんでいた。
「誰かいるのか?」
恐る恐る正面玄関から中に入ると、廊下の先から足音が聞こえた。
コツ……コツ……と、規則的に響く靴音。
「先生か?」
思わずそう口に出した。そう思ってしまうような、規則正しい歩き方だった。
でも、次の瞬間、俺たちは凍りついた。
足音は、一階を歩いたあと、二階へ、三階へ……そしてまた一階へと降りてきたのだ。
人間じゃない。
明らかに、動きが速すぎる。階段の足音がないのに、階層が変わっていく。
「帰ろう」と浩志が言い、二人で玄関に向かった。
でも扉は、開かなかった。
「……鍵なんかかけてないよな?」
ガチャガチャとノブを回していると、背後から“ガラッ”という音が。
振り向くと、職員室の扉が開いていた。
中は真っ暗。だけど、黒板に“出席を取ります”とチョークで書かれていた。
震える手で懐中電灯を照らすと、教壇の前に、スーツ姿の何かが立っていた。
顔は見えなかった。ただ、口の位置にだけ、笑ったような白い線が浮いていた。
その瞬間、扉が勝手に開いた。
俺と浩志は振り返りもせずに逃げた。
翌朝、あらためて校舎を見に行ったが、窓ガラスには無数の手形がついていた。
そして、黒板の文字はこう変わっていた。
「欠席2名」
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