大学2年の夏、友人から格安のアパートを紹介された。
ボロいけど駅からも近く、家賃は相場の半額以下。怪しいとは思ったが、金もなかったし、見た目もそれなりだったので契約することにした。
ただ、ひとつだけ気になる点があった。
部屋の北側に小さな窓があるのだが、そこだけ開かない。外から釘で打ち付けられているのか、いくら押してもびくともしなかった。
不動産屋に聞いても「もともとそういう作りなんです」と曖昧に濁される。なんとなく気味が悪かったが、特に不便もなかったので気にしないことにした。
引っ越して数日、夜になるとその窓の近くから「カリ……カリ……」という音が聞こえてくるようになった。最初はネズミか何かかと思ったが、ある日ふと気づいた。
その音、窓の外からしている。
でも、その窓は建物の構造上、人が立てる位置にないのだ。外階段もないし、下はただの狭い隙間。誰かが立って音を立てるには無理がある。
ある夜、どうしても眠れず、懐中電灯を持ってその窓に近づいてみた。光を当てると、ガラスの向こうに、何かが映った。
“手”だった。
白くて細い手のひらが、内側からガラスに押し当てられていた。だが、僕は部屋の中にいる。その手は、どう考えても外から貼りついているのだ。
パニックになり、そのまま布団に潜って朝を待った。
翌日、知り合いの霊感が強いという女の子に事情を話した。彼女は僕の部屋に入るなり、顔をしかめた。
「その窓、絶対に開けちゃダメだよ」
「開かないんだよ。開けようとしてもびくともしない」
「……じゃあ大丈夫。たぶん、封じてあるんだと思う。開けたら、出てくるよ」
それ以来、僕はその窓に近づかないようにしていた。
でも、昨夜――
寝ていると、カチリという音がした。
目を覚まして見ると、その窓が、少しだけ開いていた。
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