隣人のノート

一人暮らしを始めて3ヶ月。
隣の部屋には30代くらいの男性が住んでいた。見た目はおとなしそうで、あいさつをすれば軽く会釈を返してくる程度。

特に問題もなく過ごしていたが、あるときから妙な違和感を覚えるようになった。

朝、玄関前にゴミ袋を置いて出かけると、袋の位置が微妙に変わっていたり、コンビニで買ったレシートが無くなっていたりする。

最初は風かと思ったが、ある日、ポストに入れたはずの書類が封を開けられた状態で戻されていた。

管理会社に相談したが、「証拠がないと何とも……」という返事。

念のため、自室の玄関にスマホを仕掛けて録画することにした。
そして、翌朝――

動画には、私が出かけた直後に隣人が部屋の前に立ち、ポストを覗いたりドアノブをいじったりする姿が映っていた

恐ろしくなった私は警察に相談し、注意してもらうことにした。

その日の夜、隣人がドアをノックしてきた。

「……すみません、誤解させるようなことをして……ご迷惑おかけしました……」

異様に落ち着いた声で、何度も頭を下げた。

それから彼は引っ越していった。

私もなんとか安心して暮らしていたが、ある日、ポストに茶封筒が入っていた。

中には1冊のノート。

開くと、日付ごとにびっしりと書き込まれた文章が並んでいた。

《今日は帰宅が21時15分。いつものコンビニ袋は手に持っていた。鞄は左肩。靴の紐は緩めだった》

《カレーの匂い。夕飯はレトルトか。風呂は23時頃。電気は24時過ぎまで点いていた》

──ページの最後に、こう書かれていた。

「あなたの生活はとても美しく、静かで、完璧だった」

ぞっとしてページを閉じた。

ノートの裏表紙には、私のフルネームと部屋番号が丁寧に書かれていた。

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