高校時代の話だ。
当時、通学路の途中に使われていない廃校があった。
木造の古い建物で、フェンスの向こうに校舎がひっそりと建っていた。
ある日、クラスの男子数人と肝試しをしようということになり、夜にその廃校を訪れた。
入口のフェンスは壊れていて、簡単に中に入れた。
懐中電灯の光を頼りに、校舎の中をそっと歩く。
床板はところどころ抜けていて、空気は湿っていた。
3階の理科室にたどり着いたとき、突然、「コツ……コツ……」と何かの足音が響いた。
全員が動きを止めた。足音は一定のリズムで、階段を登ってくるようだった。
「誰かいるのか……?」
誰かが声を出したが、返事はない。
だが、足音だけは確実に近づいてくる。
――コツ、コツ、コツ。
音が止まり、廊下の影から赤い靴のつま先だけが見えた。
私たちは一斉に悲鳴を上げて逃げ出した。
翌朝、学校でその話をすると、ある教師がこんな話をしてくれた。
「昔、その廃校にいた女の子が、赤い靴を履いていてね。
ある日、校舎の階段から落ちて亡くなったんだ。
それ以来、夜になると赤い靴の足音が聞こえるって噂があった」
私たちはゾッとした。
それだけなら、よくある怪談話で終わっていたかもしれない。
だが、その週末。クラスの一人が廃校のそばを通りかかり、写真を撮った。
廃校の入り口に、見覚えのある赤いスニーカーがぴったりと並べて置かれていた。
私たちが肝試しに行ったとき、誰かが履いていたはずのものだ。
そしてその下に、紙が一枚。
びっしりと書かれた文字は、こう始まっていた。
「私の靴、返してくれてありがとう」
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