ママの携帯

小学1年生の妹が、最近よくママのスマホで写真を撮るようになった。
「見てー、ママの真似してるの!」と言いながら、カメラを向けてカシャッと音を鳴らしては笑っている。

ママは仕事でいつも帰りが遅いから、妹はママのスマホを持って遊んでいる時間が多くなった。
「勝手に触っちゃだめだよ」と何度も言ったが、妹は悪びれもせず笑うだけだった。

ある日、私は妹に「どんな写真撮ってるの?」と尋ねた。

「えへへ、見せてあげるね」

スマホのフォルダを開くと、そこには妹が撮った写真が何枚も並んでいた。

ぬいぐるみ。机。天井。自分の顔。何の変哲もない写真たち。

でも、一番最後の1枚だけ、違和感があった。

そこには、寝ている私の写真が写っていたのだ。

私の布団の隣には、何か黒い影がうっすらと写っていた。
もしかして妹が夜中にこっそり入ってきて撮ったのかと思ったが、「これ、いつ撮ったの?」と聞くと、妹は首を傾げた。

「え?それ、ママが撮ったんだよ?」

──ママは、今、病院のベッドの上だ。

1ヶ月前に事故にあって、意識不明のまま入院している。
スマホも、ずっと病室に置いたままのはずだった。

「このスマホ、どこで見つけたの?」と聞くと、妹は「昨日、ママがくれた」と言う。

私は背筋が凍った。

スマホの写真フォルダを見ると、昨日の日付で10枚近くの写真が保存されていた
すべて、妹の寝顔や、家のリビングの様子を映したものだった。

そのどれにも、どこかにうっすらと“黒い影”が写っていた。

私は慌ててスマホをしまい、妹から取り上げた。

翌朝、妹がいなくなった。家の中をいくら探してもいない。玄関は鍵がかかっていた。

ふと、スマホのカメラロールを確認すると──新しい1枚の写真が追加されていた。

暗い森の中で、妹が手を引かれている。

影のような何かと一緒に。


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