私が大学時代、地元に帰省していたときの話だ。
ある晩、幼なじみのタケルと深夜ドライブをしていると、山のふもとにある古びた神社の前を通りかかった。
「なあ、肝試しでもしないか?」
タケルがそう言ってきた。彼は昔から怖いもの知らずで、私の嫌がる顔を見るのが好きだった。
「夜の神社なんて、縁起悪いだろ……」
そう答えたが、結局押し切られ、懐中電灯一つを持って鳥居をくぐった。
神社は長い石段の上にあり、足元は落ち葉でいっぱいだった。風もないのに、木々の枝がざわざわと揺れている気がした。
階段を登る途中、タケルがふと立ち止まった。
「……今、後ろに足音しなかった?」
私たちは二人きりのはずだった。後ろを照らすが、誰もいない。もちろん、他に車も停まっていなかった。
「風の音だろ」
そう言って再び登り始めた。やっとの思いで拝殿にたどり着いたとき、妙なことに気づいた。
境内の砂利の上に、足跡がついていたのだ。
私たちのとは別の、濡れたような裸足の足跡が、ぐるりと社を取り囲むように点々と残っていた。
「これ……誰の?」
そう口にした瞬間、背後の森の中から、「ヒュゥ……ヒュゥ……」と笛のような音が聞こえてきた。
私は震え上がり、タケルも青ざめた顔で「帰ろう」と言った。
全速力で階段を駆け下り、車に飛び乗った。エンジンをかけて走り出したが、バックミラーに、鳥居の前に人影が立っていたのを、私は見逃さなかった。
次の日、地元の古老にその神社の話を聞いた。
「あそこはな、昔、疫病が流行ったときに“人柱”を立てたんだ。まだ若い女だったそうな。夜になると、裸足で境内を歩いてるらしい」
足跡。濡れたような。
私たちが踏み込んだのは、そういう場所だった。
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