会社帰り、いつものように夜10時過ぎの電車に乗った。
駅のホームはほとんど人がいなくて、電車もがらがらだった。
俺はつり革に掴まりながら、スマホでニュースを見ていた。
ある駅で乗客が1人乗ってきた。
スーツ姿の中年男。顔はよく見えなかったが、やけに背筋が伸びていて、視線がまっすぐだったのが印象的だった。
特に気にもせずスマホに視線を戻したのだが……
次の駅でも、その男は降りずにそのまま立っていた。
さらに次の駅でも、まだ降りない。
ふと気づくと、男の視線がこちらを向いている気がした。
ちらっと顔を上げると、じっと俺を見ていた。
目が合ってもそらさない。笑いもせず、ただ静かにこちらを見つめている。
さすがに気味が悪くなって、車両を移動しようと立ち上がった。
すると男も同時に動いた。
同じように歩き出し、俺が移動した車両に一緒に入ってきた。
「……偶然だろ」
そう思い直して座席に座った。男は俺の向かいに立ち、やはりこちらを見ていた。
終点が近づき、車内のアナウンスが流れる。
俺は電車を降りて自動改札を出た。
振り返ると──あの男も改札を出ていた。
「さすがにこれは気持ち悪い」と思い、コンビニに寄って時間をずらした。
10分ほど立ち読みしてから外に出ると、向かいの自販機の前にあの男が立っていた。
もうダメだと思い、急いで家へと向かう。
アパートに着いて、急いで鍵を閉めた。心臓がバクバクしていた。
少ししてインターホンが鳴った。
モニターを見ると、スーツの男が立っていた。
顔は映っていない。ちょうどカメラの範囲から外れていて、肩だけが見えていた。
俺は警察に電話した。
「ずっと後をつけられてて、今玄関前にいます!」
5分ほどでパトカーが到着したが、すでに男の姿はなかった。
警察官が辺りを見回した後、こう言った。
「この人ですか?」
差し出されたスマホには、モニター画像が映っていた。
だが、そこにいたのは──俺の写真だった。
スーツを着て、インターホンの前に立つ、俺そっくりの男。
「これ、あなたじゃないんですか?」
違いますと否定したが、警察官はどこか疑わしそうだった。
家の中を確認してもらったが何も異常はなかった。
警察が帰ったあと、ふと郵便受けを確認した。
中に入っていた紙切れには、たった一言──
「おかえり。待ってたよ」
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