昨日の警察官

最近、近所で空き巣被害が増えているらしい。
町内会の回覧板にも注意喚起のチラシが入っていたし、母も「玄関や窓の鍵、ちゃんと確認しなさい」と何度も言うようになった。

それでも特に危険を感じることもなく、僕はいつも通り学校に通い、夜にはいつも通り布団に入る毎日だった。

ある夜、寝静まった頃、廊下の方から軋むような音がした。
最初は風かと思ったが、何かが床をゆっくり歩いているような気配がした。

リビングをそっと覗くと、照明は消えており、誰の姿もなかった。
母はもう寝ているはずだし、特に何も起きていない……そう自分に言い聞かせて寝直した。

翌朝、母にそのことを話すと、彼女は少し笑って「気のせいじゃない? 疲れてたんでしょ」と軽く流した。
でも、何となく不安が残っていた僕は、放課後に最寄りの交番に寄って相談した。

話を聞いた警官は親切で、「じゃあ家の様子を見に行きましょうか」と言ってくれた。
すぐに警官が家まで来てくれて、母も対応してくれた。

玄関や裏口、窓の鍵、ベランダの施錠状態まで確認してくれて、「異常はないですね」と言われて少し安心した。

警官が帰ったあと、母は「ちゃんと見てくれてよかったね」と僕に言った。

その晩は久しぶりにぐっすり眠れた……はずだった。

夜中、ふと目が覚めた。
部屋のドアは閉まっているはずなのに、ほんの少しだけ開いていた。

その隙間から、何かがこちらを“覗いている”気配がした。
恐る恐るライトをつけて飛び起き、ドアを開けたが、誰もいない。
母の部屋を確認すると、ぐっすり眠っていた。

次の日、学校から帰ると、家の電話が鳴っていた。
受話器を取ると、昨日の警官の声だった。

「昨日お伺いした○○です。念のため、今日お母様にも再度確認したいのですが……」

「え? 昨日、対応してもらいましたよね? 母が……」

すると、警官はしばらく沈黙した後、小さな声でこう言った。

「……お母様、昨日は一日中、お留守だったそうですよ」

背中に冷たいものが走った。

そのとき、母がキッチンから顔を出して、「誰から?」と笑顔で聞いてきた。

僕は、受話器をそっと置いた。

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