僕の部屋の窓からは、家の裏にある小さな空き地が見える。
その空き地には、古びたブランコがひとつだけポツンと設置されていた。
ある日、そのブランコに乗っている女の子を見かけた。
真っ白なワンピースに肩までの黒髪。年齢は6〜7歳くらいだろうか。
無表情で、ただ前後にゆっくりと揺れていた。
最初は「近所の子かな」と思ったが、次の日も、またその次の日も、全く同じ時間に、同じ服装でブランコをこいでいた。
声も出さず、笑いもせず、ただじっと一点を見つめて。
ある日、友人が僕の家に遊びに来たとき、その女の子の話をした。
「なあ、あそこにいつもいるんだよ」と、空き地を指差す。
すると友人は首をかしげ、「え? 誰もいないけど」と言う。
「いやいや、あの白い服の女の子。ほら、ブランコに──」
僕の言葉を遮るように、彼が真顔で言った。
「そこに……ブランコなんかないぞ?」
はっとして窓を見直すと、確かに、そこには草の生い茂った空き地が広がっているだけだった。
鉄の支柱もロープも、何もない。
動揺しながらも、その日は気のせいだったことにして眠りについた。
けれど、問題はその夜から始まった。
夢の中に、あの女の子が現れるようになった。
無表情のまま、僕のベッドの横に立っている。
夢の中で、彼女はいつも同じことを繰り返した。
「……遊んでよ……」
「……どうして見てるだけなの……」
ある日、耐えきれず夢の中で「誰なんだよ、お前は!」と叫ぶと、初めて彼女が口を開いた。
「……やっと気づいてくれたんだね」
目が覚めた。汗でシーツが湿っていた。
窓の外を見ると、朝の光の中に──
朽ち果てたブランコが、ゆらゆらと風で揺れていた。
そこには、やはり誰もいないはずだった。
僕は再び空き地に向かって歩き出した。
確かにそこには今、壊れかけのブランコがある。昨日まではなかったはずのものだ。
支柱には無数の傷跡と、子どもの手形のような汚れがついていた。
ブランコの下に、小さな看板が倒れていた。
《○○ちゃんへ もう、ここには来ちゃいけません》
そして、その看板の裏には、手書きでこう書かれていた。
「見つけてくれてありがとう。もう、寂しくないよ」
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