エレベーターで会った男

平日は残業が続き、毎晩終電ギリギリの帰宅が続いていた。
その日も終電を乗り継ぎ、マンションに着いたのは深夜0時過ぎ。
玄関ロビーには誰もおらず、ひっそりと静まり返っている。

カードキーでオートロックを解除し、エレベーターのボタンを押す。
ドアが開くと、中にはスーツ姿の男がひとり、背を向けた状態で立っていた。

「……あれ?下から来たのに誰か乗ってたんだ」

そう思いながらも軽く会釈して乗り込んだが、男はこちらを見ようともしない。
顔も見えないまま、無言で前を向いたままだ。

嫌な空気を感じながらも、ボタンを押してドアが閉まる。
上昇するエレベーター。静寂。

途中、男が一言も喋らないことが逆に不気味で、降りる階が来た瞬間、逃げるように飛び出した。
ふと後ろを振り返ると、男はこちらを向いたまま、ドアが閉まるまでじっと立っていた。

数日後、管理人室から「少しお話が」と呼び出された。
防犯カメラに映った映像に不審な点があるとのこと。

その夜のエレベーター映像を一緒に確認すると──

自分がエレベーターに乗る瞬間、中には誰もいなかった。

なのに、自分は何かに向かって会釈している
ドアが閉まる直前、自分が無言で降りていく間、何もいない空間に怯えたような目をしている。

「……あなた、誰と一緒に乗ったんですか?」

そう尋ねられたとき、映像にはもう一つおかしな点があった。
エレベーターの床に誰かの靴跡のような黒い跡が、ずっと残っていた。

その跡は、自分が降りたあともしばらく消えなかった。

そして、翌日。
管理人が行方不明になった。

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