彼女の実家に初めて挨拶に行った日のことだ。
玄関をくぐると、廊下にずらりと家族写真が並んでいた。親戚や子供のころの写真もあり、温かい家庭なんだなと思った。
彼女の母親が出迎えてくれ、少し緊張しながらもリビングでお茶をご馳走になった。
「うちの子と仲良くしてくれてありがとうね」と柔らかく微笑んでくれた。
その日は夕飯も一緒に食べて、夜には帰宅することにした。
帰る間際、彼女が「ちょっとトイレ行ってくるね」と言ったので、廊下で待つことにした。
何気なく写真を眺めていたとき、ふと、ひとつの違和感に気づいた。
すべての家族写真に、彼女だけが写っていないのだ。
父・母・妹・弟、それらしき人物はいるのに、彼女がいない。
おかしいと思って何枚かよく見てみたが、やはり彼女は1枚も写っていない。
戻ってきた彼女にそのことを伝えると、彼女は一瞬固まったように見えたが、すぐに「小さいころから写真が嫌いで、写ってないのが多いんだ」と笑ってごまかした。
気にすることでもないか、と思いながら帰宅したが、モヤモヤは拭えなかった。
その数日後、偶然彼女の家の住所をググってみた。
実家の外観写真が出てくるだろうと思ったのだ。
だが、検索結果のトップに表示されたのは、7年前の火事の記事だった。
「〇〇町の住宅で火災 家族4人が死亡、長女のみ不在で無事」
掲載された写真は、あの家だった。
記事に写る焼け落ちた家と、今自分が行った“彼女の実家”はまったく同じだった。
今、彼女はとなりの部屋でスマホをいじっている。
でも——
僕は、彼女のことをもう写真に撮らないことにした。
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